文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

フェルナンド・ペソア『[新編]不穏の書、断章』

フェルナンド・ペソア 澤田直

『[新編]不穏の書、断章』 平凡社ライブラリー

 

フェルナンド・ペソア(1888-1935)の『[新編]不穏の書、断章』を読了しました。ポルトガルの詩人・作家であるフェルナンド・ペソアは、イタリアの作家であるアントニオ・タブッキが淫したことでもよく知られていますが、「異名者」と呼ぶ架空の詩人・作家として(そのペルソナを纏って)無数の遺稿を著しています。本書はそれらのテクストの中から断片的な箴言を訳者が独自に編集した「断章」と、ベルナルド・ソアレス名義で書かれた「不穏の書」の抄訳とから成っています。

 

私が死んでから、伝記を書く人がいたとしたら、これほど簡単なことはない。

ふたつの日付があるだけだ。生まれた日と死んだ日。

このふたつに挟まれた日々や出来事はすべて私のものだ。

 

この断章の言葉のある種の裏返しとして、「不穏の書」の中で展開されている自伝のようなものは「脈絡のない印象」であり「生のない私の物語」であるとされます。『ヘンリ・ライクロフトの私記』や『マルテの手記』をはじめとして、手記の形式で描かれた小説は私がこよなく愛するところの文学形式のひとつなのですが、リスボンに暮らす簿記補佐であるソアレスの手記であるとされる本書は、それらの先行作品に比べてもより透明な傍観者とでもいうべきスタイルで描かれているように思われます。その一つひとつの箴言なるものに、個人的な感想としては私自身が心惹かれるところはないのですが。

 

【満足度】★★★☆☆