文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

セルバンテス『ドン・キホーテ 後篇』

セルバンテス 牛島信明

ドン・キホーテ 後篇』 岩波文庫

 

世紀の傑作と謳われる超有名作品。このブログを書き始める前に、既に前篇については読了していました。スペインの作家・セルバンテスの書いた『ドン・キホーテ』はありとあらゆる後世の文学者に影響を与え、多くの批評家から様々に論じられたほか、舞台や映画などの「メディアミックス」展開すらも経て、今日に至っています。

 

騎士道物語に耽溺してしまうあまり狂気に至ったドン・キホーテが、お供のサンチョ・パンサを連れて遍歴の旅(もどき)に出かけていき、実際には風車の群れである巨人たちに颯爽と飛び掛かる…といった誰もが知っている物語は前篇で語られます。そして、今回読了した後篇では、ドン・キホーテは相変わらず遍歴の旅に出かけるものの、その「狂気は大きく様変わり」してしまっていると指摘されます(文庫カバーの内容紹介より)。道行く田舎娘が想い姫ドゥルシネーアの姿に見えることもありません。「ここにいるのは、現実との相克に悩み思案する、懐疑的なドン・キホーテである」(同)。これらの解説はたしかにそうなのだと思うのですが、それだけで後篇の持つ「色」を捉えることができるかというと、どうもそれだけでは駄目な気がします。

 

後篇を読んで私が強く感じたのは、メタフィクション性の更なる進行具合でした。物語を読みすぎておかしくなった人を物語で描くという『ドン・キホーテ』という作品の基本的な構図からして自己言及的な側面があるのですが、後篇ではさらにそれが進化して「前篇の物語を読んでドン・キホーテに興味を持っている登場人物」が現れて、話をややこしく(おもしろく?)しています。『ドン・キホーテ』が前後篇で分かれて出版されているからこそ可能な業ですが、何とも現代的なアプローチだなと感じます。

 

しかし、何だかんだとおもしろく読めはしたとはいえ、この作品の軸になる部分をうまく捉えることができないままに読書が終わってしまったという感じでした。出会うタイミングがそれほど良くなかったのでしょうか。再読する機会があれば、もう少し深堀りしてみたいところ。

 

【満足度】★★★☆☆