文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

スティーヴン・ミルハウザー『マーティン・ドレスラーの夢』

スティーヴン・ミルハウザー 柴田元幸

『マーティン・ドレスラーの夢』 白水Uブックス

 

スティーヴン・ミルハウザー(1943-)の『マーティン・ドレスラーの夢』を読了しました。ほとんどの作品が日本語に翻訳されているミルハウザーですが、私にとって本書は『バーナム博物館』、『木に登る王 三つの中編小説』に続いて三冊目の読書体験となります。ミルハウザーは本書で1996年のピューリッツァー賞を受賞しています。

 

これまでに読んだミルハウザーの作品には、その一部に見られる暗い情念のようなものに惹きつけられる部分はあったものの、全体的に何となく乗れないまま不完全燃焼といった感想を覚えていました。しかし、長編小説である本書には冒頭から引き込まれてしまって、そのまま一気に読み終えることになりました。本書の後半では、主人公であるマーティン・ドレスラーの「夢」を体現する「ニュー・ドレスラー」や「グランド・コズモ」といった建築の数々が登場して、ミルハウザーフェティシズムが炸裂しているのですが、そうしたミルハウザーらしい部分よりも、本書前半部の基調を成しているビルドゥングスロマンの方を楽しく読むことができました。

 

ヴァーノン姉妹とその母親を巡る奇妙ともいえる結婚生活や、喪失の後に迎えるフィナーレの爽やかな空気感など、いろいろなピースが収まるべきところに収まって、素晴らしい作品になっていると思います。

 

【満足度】★★★★★