文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

マリオ・バルガス=リョサ『アンデスのリトゥーマ』

マリオ・バルガス=リョサ 木村榮一

アンデスのリトゥーマ』 岩波書店

 

マリオ・バルガス=リョサ(1936-)の『アンデスのリトゥーマ』を読了しました。本書が発表されたのは1993年で、邦訳が刊行されたのは2010年のノーベル文学賞受賞後のタイミングとなる2012年です。

 

本書の主人公、というよりも実際のところは狂言回しといった役回りを果たすのは、治安警備隊の伍長としてアンデス山中に駐屯するリトゥーマで、バルガス=リョサの他の著作『緑の家』や(未読ですが)『誰がパロミノ・モレーロを殺したか』にも登場する人物です。作中では三人の男の失踪事件を調査するリトゥーマとその助手トマスの行動と、事件の背景を思わせる断片的で不穏なエピソードの描写が交互に語られていきます。サスペンスフルなストーリーを追うだけでも楽しむことができる物語だと思いますが、事件の「真相」自体はこの作品のクライマックスを成すものではなくて、まるで蛇足のように付け加えられているという印象もあります。全体的に面白く読むことはできたのですが。

 

少し調べてみたところでは、当時のペルーにおいて政治的勢力を伸張していたマオイズムの活動への意識が本書の背景にあるのではないかと思われますが、私が読んだ限りでは本書においてマオイズムへの直接の言及はなく、アンデス先住民族や霊的なもののヴェールという部分が強調されているようです。これがなぜなのかということも私にはよく解らないのですが。

 

【満足度】★★★★☆