文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

筒井康隆『夢の木坂分岐点』

筒井康隆

『夢の木坂分岐点』 新潮文庫

 

筒井康隆の『夢の木坂分岐点』を読了しました。谷崎潤一郎賞受賞作ということで、随分と昔に読んだ記憶はあるのですが、いつのことだったかまでは覚えていません。あり得べき生が分岐的に展開されていくプロットは、それとしてみると自由闊達なのですが、その中で変わらぬものの存在も垣間見えて面白く感じられます。幕切れの逸脱感が作者の真骨頂という気もします。

 

【満足度】★★★☆☆

桜井哲夫『現代思想の冒険者たち 第26巻 フーコー―知と権力』

桜井哲夫

現代思想冒険者たち 第26巻 フーコー―知と権力』 講談社

 

桜井哲夫の『現代思想冒険者たち 第26巻 フーコー―知と権力』を読了しました。1990年代後半に公刊された「現代思想冒険者たち」シリーズの一冊です。博士論文である『狂気の歴史』、『言葉と物』、そして「パノプティコン」を有名たらしめた『監獄の誕生』、『知への意思』といった主要著作の解説を交えながら、世俗の人間としてのフーコーを描いた評伝です。思想史家としてのフーコーの読書にはいつかゆっくりと取り組んでみたいのですが。

 

【満足度】★★★☆☆

 

ソポクレス『オイディプス王』

ソポクレス 藤沢令夫

オイディプス王』 岩波文庫

 

ソポクレス(前497/6頃-前406/5頃)の『オイディプス王』を読了しました。言わずとしれた古代ギリシア悲劇のマスターピースです。ソポクレスは120以上もの戯曲を制作したそうですが、そのほとんどは散逸してしまっており、現代に遺されているのはわずか7作品とのこと。それらの作品の中でも本作は「エディプスコンプレックス」などの言葉の元にもなった、極めて有名な父殺しのエピソードを内包するひとつの文化的源流を成しています。

 

あまりに有名な作品すぎて、作品自体を読むのは今回が初めてのことだったか、これが再読になるのか、記憶があまり定かではないのですが、スフィンクスの謎解きのエピソードは本編には組み込まれていなかったのだということが何となく新鮮に感じられました。

 

【満足度】★★★☆☆

冨田恭彦『バークリの『原理』を読む――「物質否定論」の論理と批判』

冨田恭彦

『バークリの『原理』を読む――「物質否定論」の論理と批判』 勁草書房

 

冨田恭彦の『バークリの『原理』を読む――「物質否定論」の論理と批判』を読了しました。『観念論の教室』などのこれまでの冨田氏の著作においても展開されている、バークリーの「物質否定論」に対する批判的読解が本書のメインテーマにはなるのですが、そこに至るまでのバークリーの主著『人知原理論』の精読についてもあらためて勉強になりました。

 

【満足度】★★★☆☆

イアン・マキューアン『恋するアダム』

イアン・マキューアン 村松潔訳

『恋するアダム』 新潮社

 

イアン・マキューアン(1948-)の『恋するアダム』を読了しました。原題は“Machines Like Me”で、相変わらず意訳したタイトルをつけるのはマキューアン作品翻訳の定番なのでしょうか。マキューアン自身が意訳せざるを得ないタイトルを付けがちであるということなのかもしれませんが。

 

冴えない男、秘密を抱えた女、そしてアンドロイドの「アダム」の奇妙な三角関係を軸に物語が進んでいくのですが、マキューアンお得意のサスペンス要素を絡めながら、どこか不穏な空気が作品全体の奥底に沈殿しています。数学者チューリングが生きているパラレルワールド(テクノロジーの進歩も現実世界よりも早いようです)を舞台にしているのですが、その設定の使い方もなかなか斬新に感じました。作品としての「不協和なまとまり」とでも言うべきものは、さすがマキューアンといったところでしょうか。

 

【満足度】★★★☆☆

コーネリス・ドヴァール『パースの哲学について本当のことを知りたい人のために』

コーネリス・ドヴァール 大沢秀介訳

『パースの哲学について本当のことを知りたい人のために』 勁草書房

 

コーネリス・ドヴァールの『パースの哲学について本当のことを知りたい人のために』を読了しました。原題は“A Guide For The Perplexed, Peirce”で「困惑した人」を対象とした哲学入門書で、哲学者パースの全体像を提示することを目的とした書籍です。

 

比較的短い作品なのですが、数学、論理学、記号論プラグマティズム、そして宇宙論といったパースの幅広い業績を広範にカバーしています。その一方で一つひとつの叙述はそれほど詳細ではなく、もしかすると読者によってはさらに困惑してしまう可能性もあるかもしれません。ある意味では異形でもある哲学者パースの全体像を掴むには良書だと思います。

 

【満足度】★★★☆☆

スティーヴン・キング『アトランティスのこころ』

スティーヴン・キング 白石朗

アトランティスのこころ』 新潮文庫

 

スティーヴン・キング(1947-)の『アトランティスのこころ』を読了しました。1999年に発表された作品で2001年には映画化されているようです。時系列に沿って並べられた複数の中短編作品(ほとんど長編作品というべき長さのものもありますが)から構成されています。「1960年 黄色いコートの下衆男たち」と題された作品での少年と老人との交流などキングらしいモチーフを保ちつつ、ダークタワーシリーズとの関連性などファンにとってはいろいろ読みどころのある作品なのだと思いますが、全体としては私にとっては少しぼやけた印象の作品でした。

 

【満足度】★★★☆☆