コレット 河野万里子訳
コレット(1873-1954)の『青い麦』を読了しました。性の解放を謳って、その作品のみならず、私生活においてもそのテーゼを体現したかのようなシドニー=ガブリエル・コレットですが、その代表作のひとつとされているのが本作『青い麦』です。本書の解説でフランス文学者の鹿島茂氏が「若い男女の恋」の登場こそがフランス文学史で画期的な出来事であったと論じているのですが、ああそうなのかと思わされる部分がありました。
性のイニシエーションを経た主人公フィリップの心情の揺らぎなどは丹念に描かれているのですが、もう一方の主人公であるヴァンカについては、あまりその内面が描かれることはありません。むしろフィリップの目に映るヴァンカの姿が、果たして彼女本来の姿と言えるのかどうか。
英雄でもなければ、死刑執行人でもない……苦痛を少しと、快楽を少し……ぼくが彼女に与えたものは、それだけ……それだけなんだ……
物語末尾でのフィリップの内的な独白は、あくまでもヴェールのこちら側でなされたものに過ぎないようにも思われますが…
【満足度】★★★☆☆