モンテーニュ『エセー』
モンテーニュ 原二郎訳
『エセー』 岩波文庫
モンテーニュ(1533-1592)の『エセー』を読了しました。言わずと知れた「エッセイ」というジャンルのもととなった作品です。ただ、内容としては日常的な随想というよりは、政治、社会、詩に関するテーマが多く、フランス語よりはラテン語を学ぶ環境で育った作者の思索は、古代の詩人や思想家たちへの言及を交えながら豊かに展開されていきます。
一方では、現代でいう「エッセイ」の典型のような文章に出くわすこともあります。
くしゃみをした人に向かって、「神様のお恵みがありますように」という習慣はどこからきたかとおっしゃるのか。われわれは三種類の息を出す。下から出るのはきたなすぎる。口から出るのはいくぶん大食いのそしりを受ける。第三がくしゃみで、これは頭から出て、人の非難を受けないから、われわれにこんなに鄭重に迎えられるのである。この屁理屈を笑ってはいけない。これはアリストテレスにあるのだそうだ。
モンテーニュの死後に生まれた哲学者であるデカルトが、著作『方法序説』をラテン語ではなくフランス語で記したのは、より多くの人に読んでもらうためといわれていますが、同じくフランス語で書かれた本書にもそうした意図はあったのでしょう。「エセー」の意味は「試み」ということですが、豊富な古典知識に立脚しての自由な思索の試みにこそ本書の魅力があるのだろうと思います。
【満足度】★★★☆☆