文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

大江健三郎『「自分の木」の下で』

大江健三郎

『「自分の木」の下で』 朝日文庫

 

大江健三郎の『「自分の木」の下で』を読了しました。1999年から2000年にかけてのベルリン自由大学で講義を行っていた時代に、現地の日本人学校で子どもたちに話して聞かせたという文章が基になったという「なぜ子供は学校に行かねばならないのか」に導かれるようにして出てきた、未来の子どもたちに向けた16編のエッセイからなる作品集です。作者の妻である大江ゆかり氏による挿画、そして文庫本のためのあとがきとしてもう1編のエッセイも収録されています。

 

たびたび自身の小説の中で語ってきた愛媛の山村での少年時代の回想を中心にしたエッセイが多いのですが、作家自身の両親や祖母に関する直接的な言及が多いのが本書の特徴といえるのではないでしょうか。大江氏の代名詞ともいえる難渋な言い回しは、作家自身が自負するように、その「癖」のようなものを活かしつつも、より簡便な表現に昇華されているように思います。

 

【満足度】★★★