文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

シュテファン・ツワイク『ジョゼフ・フーシェ』

シュテファン・ツワイク 高橋禎二・秋山英夫訳

『ジョゼフ・フーシェ』 岩波文庫

 

シュテファン・ツワイク(1881-1942)の『ジョゼフ・フーシェ』を読了しました。著者の名前は「ツヴァイク」という表記の方が一般的ではないかと思います。伝記作家としてよく知られ、本書解説(1978年に著されたもののようです)によれば「外国語への翻訳点数で世界第四位に位する」といわれています。オーストリア出身のユダヤ系作家であるツワイクは、ヨーロッパ大陸における反ユダヤ主義の高まりを受けて、アメリカを経て最終的にはブラジルにまで亡命し、その地で自ら命を絶ったとのこと。

 

本書はフランス革命期の政治的策謀を生き抜いたジョゼフ・フーシェの生涯を描いたもので、「ある政治的人間の肖像」という副題が付せられています。バルザックの『暗黒事件』に影響を受けて書かれたといわれる本書ですが、風見鶏のように時流に逆らわずに激動の時代を渡り歩いた一人の政治家の姿を生き生きと描写しています。年齢を重ねると歴史に興味を持つようになる、つまりは歴史小説が好きになるというのは、自分の中にも何となく心当たりがあって、おそらくはそこで題材になっているものへの感応力を高めるのは人生経験に他ならないからなのでしょう。文学の魅力というものは、またそれとは別の地点にあるのだと思いますが。

 

【満足度】★★★☆☆