文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

バーナード・マラマッド『テナント』

バーナード・マラマッド 青山南

『テナント』 みすず書房

 

バーナード・マラマッド(1914-1986)の『テナント』を読了しました。それほど数の多くない作者の長篇小説のうち、本書はこれが初邦訳となるようです。とはいえ、その他の長篇小説の翻訳のうち多くのものが入手しづらいものとなっている現状からすれば、初めて読むマラマッドの長篇小説が本書であるという日本の読者もそれなりに多いのかもしれませんが、短編作品から受ける作家の印象と本書から受ける印象とはいささか異なっていて、本書に付された帯なる「異色作」というコピーも的を得た表現なのかもしれません。

 

ユダヤ人であり作家であるレサーと、黒人であり作家を目指すウィリーとの「対決」は、創作姿勢や文学観についての闘争であり、お互いのアイデンティティの衝突であると共に、アイリーンという一人の女性を巡っての極めて現実的な争いでもあります。お互いの内なるプライドの表出の仕方に見られるあからさまな差異が面白く、凄惨な対決にはどこか乾いたユーモアさえ漂っているようにも思えるのですが、そのあたりの距離感にマラマッドの作家としての技量を感じさせられます。

 

【満足度】★★★★☆