文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ル・クレジオ『隔離の島』

ル・クレジオ 中地義和訳

『隔離の島』 ちくま文庫

 

ル・クレジオの『隔離の島』を読了しました。原題は“La Quarantaine”で「検疫」を意味していますが、物語自体もフランスからモーリシャスへと向かう船内で発生した天然痘のために、登場人物たちが目的地近くの島であるプラト島に隔離される日々を中心として描かれています。そこに主要登場人物一族の歴史ドラマを織り込んで、作品を作者自身のルーツを巡る歴史に接続してみせる様は、さすがの手並みです。

 

シンプルな文体を手に入れてからも作者の詩的な描写は健在で、プラト島の自然や光、そこに生きる人々の姿が鮮やかに描かれます。それを読むだけでも読書の満足度は高いのですが、プラト島での日々が描かれる「隔離」と題された長大な章の中に時折挿入されるインドでの脱出行をはじめ、「隔離」の章をサンドイッチする短い章が作品を立体的に立ち上げていて、長い長い作品なのですがあらためて読み返したくなります。重層的な魅力を持つ作品で、久し振りに読書の楽しみというものを十全に味わうことができたように思います。

 

【満足度】★★★