ジュリアン・バーンズの『イングランド・イングランド』を読了しました。『終わりの感覚』でブッカー賞を受賞している作者ですが、本書も同賞の最終候補作品になったとのこと。イギリス本島のすぐ南に浮かぶワイト島に、本物のイングランドよりもイングランドらしいテーマパークを建設しようとする富豪のプロジェクトを巡るエピソードが展開されるなかで、作者お得意のアイロニーがイギリスのイギリス性なるものに対して炸裂しています。
テーマパーク・イングランドはやがて本家の存在を凌駕し、その結果として、古いイングランドは衰退の途を辿ることになるのですが、その様を作者は次のように描写しています。
他方で、本書の冒頭には「あなたの一番最初の記憶は?」という問いが掲げられ、記憶というものの不確かさ、寄る辺なさについて、本書の主人公であるマーサの口から語られています。エンターテインメント性も高く非常に分かりやすい構図を持って書かれている本書ですが、その主題が歴史というものの本質への眼差しに支えられている限りにおいて、文学のメインストリームへの問いを保持し続けたものになっていると思います。
【満足度】★★★☆☆