文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

アリ・スミス『秋』

アリ・スミス 木原善彦

『秋』 新潮社

 

アリ・スミス(1962-)の『秋』を読了しました。現代イギリスで注目すべき作家のひとりであるアリ・スミスの作品で、ブッカー賞候補作ともなったのが本書の帯には「最初の『ポスト・ブレグジット』小説」とあります。作中でブレグジットEU離脱)について明示的に触れられる箇所は少ないのですが、それでもその箇所が印象に残ってしまうほどに、ブレグジットがイギリス国内にもたらした分断は様々なかたちでイギリス国民に影を落としているのでしょう。

 

100歳を超えて眠り続ける老人と、昔その老人と隣人同士であった32歳の女性との間の交流(恋愛ともいえるべきもの)を主要なテーマとして本書の物語は綴られていきます。「何を読んでいるのかな?」と問いかける老人の姿と、彼が生きてきた時代とその歴史と、それらを短く印象的なセンテンスで掬い上げてみせるアリ・スミスの筆致は見事で読まされます。訳者あとがきによると、季節四部作として構想され既にイギリスでは刊行されている作品があるようで、それらを楽しみに待ちたいと思います。

 

【満足度】★★★★☆