ペーター・ハントケ 阿部卓也訳
『反復』 同学社
ペーター・ハントケ(1942-)の『反復』を読了しました。本書が発表されたのは1986年のことで、若くして気鋭の劇作家としてデビューを飾ったハントケが丸みを帯びていくように円熟していく過程において書かれた作品といってよいのかもしれません。大戦を経て行方不明になった兄の行程を反復するようにオーストリアのケルンテンからスロヴェニアへと赴く主人公の物語も、過去の上に少しずつ層を重ねるようにして積み上がっていくといった仕方で、緩やかに過去と現在を繰り返しています。
回想とは、過去にあったことがただ蘇ることを言うのではない。過去にあったことが、蘇ることによって、それぞれの場所を占めることだ。回想して初めて、その体験は僕にとって意識され、名付けうるもの、声を持つもの、口にしうるものとなる。
ノーベル文学賞の受賞を機に作品の翻訳も進んでいるようで、本棚の中にずっと眠らせてしまっていてようやく読むことができた本書の次には、新しく翻訳されるハントケの作品群を手にとってみたいと思います。
【満足度】★★★★☆