文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

G・ガルシア=マルケス『愛その他の悪霊について』

G・ガルシア=マルケス 旦敬介訳

『愛その他の悪霊について』 新潮社

 

G・ガルシア=マルケス(1928-2014)の『愛その他の悪霊について』を読了しました。『コレラの時代の愛』と同様に愛をテーマにした作品です。短めの長編小説というか、中編小説といっても差し支えない長さになっています。狂犬病の犬に噛まれた少女シエルバ・マリアは悪魔憑きの疑いをかけられて隔離され、そこに悪魔祓いのために訪れた青年神父カエターノ・デラウラとの間にやがて生まれる激しい愛情が主題となっています。

 

本書において現実と幻想との連続性を繋ぐ媒介となっているのは悪霊と愛であり、その両者についても不分明な溶け合いのなかで描かれています。

 

【満足度】★★★☆☆

鈴木貴之編著『実験哲学入門』

鈴木貴之編著

『実験哲学入門』 勁草書房

 

鈴木貴之編著『実験哲学入門』を読了しました。哲学という営みにおいて行われてきた概念分析においては、哲学者が様々な概念の内実を明らかにするために、自身(たち)の「直観」への適合性を問題にしてきたのですが、その直観が意味するところのものを経験的に明らかにしようという試みが「実験哲学」であると言ってよいでしょう。

 

本書では、知識、言語、自由意志、行為、そして道徳などの各テーマにおいて、主として2000年代以降に展開されてきた実験哲学の営みがコンパクトに紹介されています。また社会心理学者という「隣人」から見た実験哲学の姿も素描されていて、興味深く読むことができました。経験的な科学へと接近していく哲学という学問において、今後は様々な「共同研究」が進んでいくことで、より豊かな学問的結実が生まれるのではないでしょうか。

 

【満足度】★★★★☆

 

ダンテ『神曲 天国篇』

ダンテ 平川祐弘

神曲 天国篇』 河出文庫

 

ダンテ(1265-1321)の『神曲 天国篇』を読了しました。煉獄に続いて天国へと至るダンテの道行きはいよいよ本巻で神を見るに至りフィナーレを迎えることとなります。キリスト教文化に馴染みの薄い者にとってはなかなか理解が追いつかないところもあるのですが、読み返してこその作品なのだということはあらためて感じさせられるのでした。

 

【満足度】★★★☆☆

ダンテ『神曲 煉獄篇』

ダンテ 平川祐弘

神曲 煉獄篇』 河出文庫

 

ダンテ(1265-1321)の『神曲 煉獄篇』を読了しました。ウェルギリウスとともにダンテが地獄に続いて訪れたのは煉獄(Purgatorio)で、天国を訪れることを約束された者たちが現世の罪を浄める場とされています。七つの大罪に代表される罪を清めながら煉獄の山を登るダンテは、その頂でベアトリーチェと出会うわけですが、そこからは永遠の淑女であるベアトリーチェの導きのもとで天国へと向かうことになります。ここでは生身の姿のまま異界の有様を描写する詩人の筆に注目すべきなのでしょう。

 

【満足度】★★★☆☆

ダンテ『神曲 地獄篇』

ダンテ 平川祐弘

神曲 地獄篇』 河出文庫

 

ダンテ(1265-1321)の『神曲 地獄篇』を読了しました。ルネサンス文化の先駆者であり、イタリア最大の詩人であるダンテ・アリギエーリの書いた“La Divina Commedia”の第一部をなす「地獄篇(Inferno)」です。古代ローマの詩人ウェルギリウスを導き手として、詩人ダンテは「一切の望みを捨てよ」と記された地獄の門をくぐります。

 

読みやすい口語訳で取っ付きにくさがなく、世界文学のなかで比類ない存在であるこの詩篇へと分け入っていくには最適な訳だといえるのではないかと思います。

 

【満足度】★★★☆☆

J・アップダイク『日曜日だけの一カ月』

J・アップダイク 井上謙治

『日曜日だけの一カ月』 新潮社

 

J・アップダイク(1932-2009)の『日曜日だけの一カ月』を読了しました。原題は“A Month of Sundays”で発表されたのは1975年のこと、ちょうど中期の作品といってよいのでしょうか。牧師の姦通というテーマを扱った本書ですが、ホーソーンの『緋文字』のような重苦しさとは一線を画していて、彼一流の洒脱な文章術で現代的な神学論・宗教論が展開されていく点が本書の読みどころとなっています。

 

31の章立てからなる本書は、1章が1ヶ月の1日と見立てられて、日曜日にあたる第6章・13章・20章・27章では語り手であるトマス・マーシュフィールド牧師による説教が行われます。この説教がめっぽう面白いわけなのですが、本書のタイトルが表しているように、それ以外の曜日(章)においてもマーシュフィールドによる現代的な性の説き明かしは続けられていて、アップダイクらしいそれでいてユニークな作品になっていると感じられました。

 

【満足度】★★★★☆

ブレット・イーストン・エリス『アメリカン・サイコ』

ブレット・イーストン・エリス 小川高義

アメリカン・サイコ』 角川文庫

 

ブレット・イーストン・エリス(1964-)の『アメリカン・サイコ』を読了しました。かつて映画化もされて良くも悪くも話題になった作品ですが、それから20年以上経ってからの読書となりました。ブレット・イーストン・エリスの作品はデビュー作である『レス・ザン・ゼロ』を学生時代に読んで暗澹たる気分になって以来なのですが、その処女作に劣らず問題作である本書についてはどうでしょうか。

 

繰り返される暴力的で凄惨な描写、はやりのレストランや流行を追い求めるだけの無為な会話、時折挿入される異常に力のこもったサブカルチャーに対するレビューなど、意図的に作り出された空虚さが80年代のアメリカを象徴的に描き出しています。主人公グループのヒーローとして言及されるのがドナルド・トランプという点が何とも皮肉なところで、刊行から30年を経た現代において本書がまだ読まれるべき存在であることが図らずも示されたと言えるのかもしれません。

 

【満足度】★★★☆☆