文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ラルフ・エリスン『見えない人間』

ラルフ・エリスン 松本昇訳

『見えない人間』 白水Uブックス

 

ラルフ・エリスン(1914-1994)の『見えない人間』を読了しました。「全米図書賞を受賞した黒人文学の金字塔」というと、作品に対するいささかステレオタイプなイメージを生んでしまいそうですが、なかなかに一筋縄ではいかない小説です。本書の新訳は2004年に南雲堂から刊行されていたそうですが、白水Uブックスに収録されることでより手に取りやすくなったことは喜ばしいことです。

 

自分自身を「見えない人間」として見出すという逆説的な結論に至るまでの主人公の遍歴というか、地獄めぐりが本書の全編を通して描かれています。ときにユーモラスであるがゆえに悲劇的な予感が付きまとう物語のトーンは『キャッチャー・イン・ザ・ライ』にも引き継がれるものがあるような気がします。歴史的な呪縛のもとで“走り続ける者”であり、また至るところで演説の才を見込まれる“喋る者”である主人公が、人生の要所要所で出会うメンター的人物の一人であるブレドソー氏の語りが特に印象に残っています。

 

わしは大物で、しかも黒人だが、場合によっては黒んぼうみたいに大きい声で、『はい、かしこまりました』とも言うんだよ。

 

たとえばプロテストという一様でシンプルな形態に収まらないのは、小説という媒体の優れた特性のひとつです。長い作品で十分に読めたとはいえない部分も多々あって、またいつか本書も読み返してみたいと思います。

 

【満足度】★★★