文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ル・クレジオ『嵐』

ル・クレジオ 中地義和訳

『嵐』 作品社

 

ル・クレジオ(1940-)の『嵐』を読了しました。表題作ともなっている「嵐」と「わたしは誰?」という邦題の付された二篇の中編小説が収録されています。前者は作者が深い関心を寄せる国である韓国南部の小島を舞台にした小説で、後者はアフリカのガーナからヨーロッパを舞台に一人の女性の半生が描かれます。いずれも歴史的に複雑なこの世界にあって、自らのルーツを喪失した(あるいは初めから剥奪された)人格の遍歴がテーマとされています。

 

どこかロマンティックな夢想と現実が指し示す石のような硬質さと、それらの衝突をファンタジックな筆致で描いてみせるのがル・クレジオの小説の魅力なのだと思います。

 

【満足度】★★★★☆