マリオ・バルガス=ジョサ『嘘から出たまこと』
マリオ・バルガス=ジョサ 寺尾隆吉訳
『嘘から出たまこと』 現代企画室
マリオ・バルガス=ジョサ(1936-)の『嘘から出たまこと』を読了しました。後にノーベル賞を受賞することになる作家の手になる書評集・評論集です。作者がその影響を公言するアンドレ・ブルトンの作品(『ナジャ』)をはじめ、ジョイスやヘッセなどヨーロッパの作家、フィッツジェラルド、ヘミングウェイ、フォークナーなどの北米作家、アレホ・カルペンティエールの『この世の王国』などラテンアメリカ作家の作品、はたまた川端康成の『眠れる美女』に至るまで、硬軟入り混じる世界文学の作品群が自由自在に論じられています。海外文学のブックガイドとしても活用できるかもしれません。
本書に収録された「文学と生活」と題された、あとがきめいたエッセイで、作者はマイクロソフト社の創始者であるビル・ゲイツの言葉に触れながら、紙の本に対する偏愛を吐露しています。
しかし、私とて世界のニュースなら喜んでインターネットで検索して読むが、ゴンゴラの詩やオネッティの小説、オクタビオ・パスのエッセイともなれば、画面に現れるテクストはまったく印象が違うから、そのままネット上で読む気にはならない。根拠があるわけではないが、本という形態が消滅すれば文学には深刻な、おそらくは致命的な悪影響が出ると私は確信している。名目上文学とは呼ばれても、それは今日我々が文学と呼ぶものとはまったく無縁な産物となるだろう。
日々部屋の中に増えていく本の山を見ながら、この文章を読むと何ともいえない感慨を覚えるのでした。
【満足度】★★★★☆