文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ユルスナール『とどめの一撃』

ユルスナール 岩崎力

『とどめの一撃』 岩波文庫

 

ユルスナール(1903-87)の『とどめの一撃』を読了しました。ユルスナールの作品を読むのは今回が初めてです。ユルスナールのおよそ20歳年長であるヴァージニア・ウルフが『自分だけの部屋』の中で、その時代にあって女性が小説を書くことの条件について私論を述べていますが、フランスとベルギーの貴族の家系に生まれて幼い頃から西洋古典文学に親しんでいたというユルスナールはまさに「自分だけの部屋」を持つ、ある意味では選ばれた存在だったといえるのかもしれません。

 

小説作品を読むときに、それが19世紀に書かれたものか、あるいは20世紀に書かれたものなのかという問題は、私にとって読書のときの心構えにおいて重要な要因です。したがって、本書の中心的登場人物であるエリック、幼馴染のコンラート、そしてコンラートの姉であるソフィーをめぐって展開される本書の物語は、20世紀の作品として読まれるからには、何らかの文学的技巧ないしは実存的刻印が、最初から暗黙のうちに期待されているというわけです。華麗な文体も、ソフィーをめぐる実存的苦闘も、どちらも読みごたえがあるものでした。本書は中編と呼んでも差し支えのない長さの作品で、今度はユルスナールの長編作品についても読んでみたいと思います。

 

【満足度】★★★★☆