文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

エマヌエル・ベルクマン『トリック』

エマヌエル・ベルクマン 浅井晶子訳

『トリック』 新潮社

 

エマヌエル・ベルクマン(1972-)の『トリック』を読了しました。作者によるデビュー作である本書は、最初に英語で書かれた後に自らドイツ語により書き直されて出版されるや否やベストセラーとなり、本訳書の刊行時点で十七ヶ国語に翻訳されているとのこと。気になっていた作品ではあったのですが、ようやく手にとって読むことができました。

 

本書の物語は、両親の離婚に悩みながら21世紀の現代に生きる少年マックスと、20世紀初頭のプラハで生まれて数奇な運命を辿る少年モシュの物語が交互に語られる仕方で展開されます。「ホロコースト」を背景に奇術師が仕掛けた一つのトリックが現代において生み出したものは、それ自体が何か物珍しいものというわけではなく、言ってしまえばいたって当たり前のものではあるのですが、その当たり前のものにあらためて光を向けようとする作者の試みはうまく成功しているのだと思います。

 

【満足度】★★★☆☆