文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2018-01-01から1年間の記事一覧

A・A・ミルン『ウィニー・ザ・プー』

A・A・ミルン 阿川佐和子訳 『ウィニー・ザ・プー』 新潮文庫 A・A・ミルン(1882-1956)といえば『赤い館の秘密』という推理小説(読んだことはないのですが)の作者として名前を記憶していて、それがかの有名な黄色い熊の原作小説を書いていたとは知りませ…

モーパッサン『ベラミ』

モーパッサン 中村佳子訳 『ベラミ』 角川文庫 モーパッサン(1850-1893)の第二長編である『ベラミ』を読了しました。本書のタイトルになっている「ベラミ」とは「bel ami」つまり「美しいひと」という意味で、本書の主人公である美青年デュロワに対して、…

サキ『サキ短編集』

サキ 中村能三訳 『サキ短編集』 新潮文庫 サキ(1870-1916)の短編集を読了しました。短編の名手として知られるサキですが、実際に作品を読んだのは今回が初めてでした。サキというのは筆名で、ペルシアの詩人・オマル・ハイヤーム(1048-1131)の『ルバイ…

カズオ・イシグロ『日の名残り』

カズオ・イシグロ 土屋政雄訳 『日の名残り』 ハヤカワ文庫 カズオ・イシグロ(1954-)の『日の名残り』を読了。本書を読むのは大学時代に続いて二回目のことでした。2017年にノーベル文学賞を受賞したおかげもあってか、古本屋にきれいな新古書があふれてい…

ジェームズ・M・バリー『ピーター・パンとウェンディ』

ジェームズ・M・バリー 大久保寛訳 『ピーター・パンとウェンディ』 新潮文庫 ジェームズ・M・バリー(1860-1937)の『ピーター・パンとウェンディ』を『ピーター・パンの冒険』に続いて新潮文庫の新訳で読了しました。『ピーター・パンの冒険』はケンジント…

アゴタ・クリストフ『ふたりの証拠』

アゴタ・クリストフ 堀茂樹訳 『ふたりの証拠』 ハヤカワ文庫 アゴタ・クリストフ(1935-2011)はハンガリー出身でスイスに移り住んだ後、フランス語で小説を書いたそうです。そしてその第一作目『悪童日記』(フランス語の原題は“Le garnd cahier”で『大き…

ダニエル・アラルコン『夜、僕らは輪になって歩く』

ダニエル・アラルコン 藤井光訳 『夜、僕らは輪になって歩く』 新潮社 新潮クレスト・ブックスは、お洒落な装丁に手になじむソフトカバーでついつい手に取ってみたくなるのですが、それが現代の海外作家の作品を知らせてくれることにも繋がって、本当に良い…

ライマン・フランク・ボーム『オズの魔法使い』

ライマン・フランク・ボーム 河野万里子訳 にしざかひろみ絵 『オズの魔法使い』 新潮文庫 ライマン・フランク・ボーム(1856-1919)の『オズの魔法使い』を読了。本書も『ピーター・パンの冒険』などの作品と同様に、新潮文庫の新訳がなければ手に取ること…

『トルストイ民話集 人は何で生きるか 他4篇』

中村白葉訳 『トルストイ民話集 人は何で生きるか 他4篇』 岩波文庫 トルストイ(1828-1910)の民話集を読了しました。 このブログを始めたきっかけは、ここ1〜2年ほどで海外文学を本格的に読み始めたからなのですが、その海外文学を本格的に読み始めるきっ…

シャミッソー『影をなくした男』

シャミッソー 池内紀訳 『影をなくした男』 岩波文庫 アーデルベルト・フォン・シャミッソー(1781-1838)はフランスに生まれながら、フランス革命により家族でドイツに亡命し、ドイツで詩人そして植物学者として活躍した人物です。そんなシャミッソーが友人…

ゾラ『ナナ』

ゾラ 川口篤・古賀照一訳 『ナナ』 新潮文庫 19世紀後半に活躍したフランスの作家・ゾラ(1840-1902)の『ナナ』を読了。以前にゾラの『居酒屋』を読んで、公衆浴場だったか洗濯場だったか、裸同士の女性が殴り合いの喧嘩をする場面の描写を読んで、それまで…

ジョン・アップダイク『同じ一つのドア』

ジョン・アップダイク 宮本陽吉訳 『同じ一つのドア』 新潮文庫 ジョン・アップダイクは読みたい/読まなきゃと思いながら、ずっと読むことがないままだった作家のひとり。大学の先生がアップダイクのことをえらく褒めていて、その頃にはまだ白水Uブックスの…

『対訳 シェイクスピア詩集―イギリス詩人選(1)』

柴田稔彦編 『対訳 シェイクスピア詩集―イギリス詩人選(1)』 岩波文庫 『リア王』、『ハムレット』、『マクベス』をはじめとした数々の戯曲で知られるシェイクスピアの詩作を紹介する選集。『ソネット集』からセレクトされたソネットに、劇中歌として登場…

マーク・トウェイン『ジム・スマイリーの跳び蛙』

マーク・トウェイン 柴田元幸訳 『ジム・スマイリーの跳び蛙』 新潮文庫 最近『ハックルベリー・フィンの冒けん』を翻訳した柴田さんによるマーク・トウェインの短編選集。有名な『トム・ソーヤーの冒険』も柴田さんの翻訳で最近読んだのですが、この不思議…

セルバンテス『ドン・キホーテ 後篇』

セルバンテス 牛島信明訳 『ドン・キホーテ 後篇』 岩波文庫 世紀の傑作と謳われる超有名作品。このブログを書き始める前に、既に前篇については読了していました。スペインの作家・セルバンテスの書いた『ドン・キホーテ』はありとあらゆる後世の文学者に影…

レベッカ・ブラウン『体の贈り物』

レベッカ・ブラウン 柴田元幸訳 『体の贈り物』 新潮文庫 現代アメリカの作家であるレベッカ・ブランの『体の贈り物』を読了。11の作品からなる連作短編小説集で、1作あたりは日本語の文庫本で15〜30ページほどとかなり短い。仕事を終えた一日の隙間で、一気…

ジェームズ・M・バリー『ピーター・パンの冒険』

ジェームズ・M・バリー 大久保寛訳 『ピーター・パンの冒険』 新潮文庫 新潮文庫で海外文学の新訳が続いていて、そのせいもあって普段はあまり手に取らなさそうな作品についても、まあ読んでみようかなという気分になって、本書『ピーター・パンの冒険』もそ…

レイモンド・カーヴァー『大聖堂』

レイモンド・カーヴァー 村上春樹訳 『大聖堂』 中央公論新社 レイモンド・カーヴァー全集の第3巻。高校時代に村上春樹を読んでいたときに、レイモンド・カーヴァーのことも知って、中公文庫で何冊かの作品を読みました。大学時代にはいくつかの短編を英語で…

クセノポン『アナバシス』

クセノポン 松平千秋訳 『アナバシス―敵中横断6000キロ―』 岩波文庫 おもしろいとは聞いていたのですが、本書『アナバシス』、予想以上におもしろく読むことができました。小説というよりはむしろ迫真のドキュメンタリーといった方が正確なのでしょうか。200…

ユゴー『ノートル=ダム・ド・パリ』

ユゴー 辻昶・松下和則訳 『ノートル=ダム・ド・パリ』 岩波文庫 フランス・ロマン主義を代表する作家であるヴィクトル・ユゴーの作品。昔々、赤川次郎の三毛猫ホームズシリーズのどの作品だったかで、本書に登場するカジモドの名にちなんだ「梶本」(梶元だ…

ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』

ジュンパ・ラヒリ 小川高義訳 『停電の夜に』 新潮文庫 学生時代だったか、新潮クレストブックで出た頃に読んで、今回何年ぶりかに文庫で再読となりました。表題作のラストで主人公の男性が妻に打ち明ける話の展開に、あっと言わされてしまったことをよく覚…

マリオ・バルガス=リョサ『都会と犬ども』

マリオ・バルガス=リョサ 杉山晃訳 『都会と犬ども』 新潮社 ペルーの作家であるバルガス=リョサの『都会と犬ども』を読了。バルガス=リョサ(「ジョサ」という表記も見かけますが、どちらが市民権を得るのでしょうか)の作品を読むのはこれが初めて。月並み…

トルーマン・カポーティ『夜の樹』

トルーマン・カポーティ 川本三郎訳 『夜の樹』 新潮文庫 前回の記事『嵐が丘』と同じく、高校時代だったか大学時代だったか忘れてしまったのですが、本書『夜の樹』も今回が再読になります。「ミリアム」は特に記憶に残っている作品でしたが、今回あらため…

エミリー・ブロンテ『嵐が丘』

エミリー・ブロンテ 河島弘美訳 『嵐が丘』 岩波文庫 『嵐が丘』は中学か高校の頃に角川文庫で読んだ記憶があるのですが、そのときの感想はたしか「何かよく解らない話だな」というものでした。とにかく登場人物の誰にも感情移入できなくて、主人公らしきヒ…

オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』

オルダス・ハクスリー 大森望訳 『すばらしい新世界[新訳版]』 ハヤカワ文庫 光文社からも新訳の文庫が出ていた『すばらしい新世界』ですが、私はハヤカワ文庫で読了しました。「ディストピア小説の名作」と銘打たれた帯には伊坂幸太郎さんの推薦文も載っ…

スタンダール『パルムの僧院』

スタンダール 生島遼一訳 『パルムの僧院』 岩波文庫 東京出張中に移動の新幹線やホテルで読んでいた本。スタンダールを読むのは学生時代に読んだ『赤と黒』以来のこと。あまり予備知識なく取り掛かったので、読み始めたときは戦争の描写に面白さを感じなが…

ジョン・アーヴィング『158ポンドの結婚』

ジョン・アーヴィング 斎藤数衛訳 『158ポンドの結婚』 新潮文庫 ジョン・アーヴィングの本を初めて読んだのは大学一回生のときで、それは彼の最初の長編である『熊を放つ』だったと記憶しています。冬の雪の寒さに耐えきれずに下宿を出て、大学図書館の二階…

カルロス・フエンテス『テラ・ノストラ』

カルロス・フエンテス 本田誠二訳 『テラ・ノストラ』 水声社 メキシコの作家であるカルロス・フエンテスが1975年に発表した『テラ・ノストラ』は何しろ長大な作品で、読み終えた感想として、まずはどうしてもその長さについて語りたい気分になります。二段…

アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』

アーサー・C・クラーク 福島正実訳 『幼年期の終わり』 ハヤカワ文庫 アーサー・C・クラークさんの本は初読。SFの古典作品は読んでおきたいと思って手に取った次第。 冒頭ではこれから宇宙に飛び立とうとする人類の姿が描かれる。かつて共に学んだ二人の科学…

J.L.ボルヘス『アレフ』

J.L.ボルヘス 鼓直訳 『アレフ』 岩波文庫 アルゼンチンの作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『アレフ』を読了。2017年1月に岩波文庫に収められていますが、ラテンアメリカ文学研究者として有名な鼓さんによる新訳です。 ボルヘスは同じく岩波文庫の『伝奇集…