文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

T. E. カーハート『パリ左岸のピアノ工房』

T. E. カーハート 村松潔訳 『パリ左岸のピアノ工房』 新潮社 T. E. カーハートの『パリ左岸のピアノ工房』を読了しました。本書のカバーに書かれたプロフィールによれば、作者はアイルランドとアメリカの二つの国籍を保有し、世界各地を回った後に本書の執…

綾辻行人『Another 2001』

綾辻行人 『Another 2001』 角川文庫 綾辻行人の『Another 2001』を読了しました。半年前に読み直したシリーズ前作である『Another』とスピンオフ作品である『Anothe エピソードS』からあまり間を置かずに読もうと思っていた作品なのですが、結局はこのタイ…

吉村達也『富士山殺人事件』

吉村達也 『富士山殺人事件』 光文社文庫 吉村達也の『富士山殺人事件』を読了しました。目次ページなど随所に工夫も凝らされていて、読者を楽しませようという作者の遊び心が感じられるとともに、設定にもトリックにも本格ミステリーに対する作者の気概が感…

五十嵐律人『法廷遊戯』

五十嵐律人 『法廷遊戯』 講談社文庫 五十嵐律人の『法廷遊戯』を読了しました。映画化もされて話題となっているメフィスト賞受賞作で、現役の法曹によって書かれたミステリー作品です。法律の解釈を巡る丁々発止のやり取りはこうしたバックグラウンドを持つ…

吉村達也『ラベンダーの殺人』

吉村達也 『ラベンダーの殺人』 角川mini文庫 吉村達也の『ラベンダーの殺人』を読了しました。「三色の悲劇」と題されたシリーズ作品からの続編とし角川ミニ文庫から刊行されたのが本書です。後にはリメイクされて角川文庫に収録されています。 【満足度】★…

イアン・マキューアン『夢みるピーターの七つの冒険』

イアン・マキューアン 真野泰訳 『夢みるピーターの七つの冒険』 中央公論新社 イアン・マキューアン(1948-)の『夢みるピーターの七つの冒険』を読了しました。マキューアンが書いた児童書ですが、マキューアンらしく一筋縄ではいかないところもあって、大…

吉村達也『妖しき瑠璃色の魔術』

吉村達也 『妖しき瑠璃色の魔術』 角川文庫 吉村達也の『妖しき瑠璃色の魔術』を読了しました。不思議な殺人現場が描かれるとともに、物語自体も悲劇的で不穏な余韻を残したままで終わりを迎えます。今思うとなかなかに思い切った作品だと思うのですが、読者…

赤川次郎『血とバラ』

赤川次郎 『血とバラ』 角川文庫 赤川次郎の『血とバラ』を読了しました。超が付くベストセラー作家の初期短編集です。郷原宏氏による解説と及川達郎氏によるカバー画が安定のクオリティで作品を支えているという印象です。 【満足度】★★★☆☆

吉村達也『哀しき檸檬色の密室』

吉村達也 『哀しき檸檬色の密室』 角川文庫 吉村達也の『哀しき檸檬色の密室』を読了しました。密室トリックを表題に謳ってはいるものの、トリックそのものというよりはその“位置づけ”のようなものを描くことが、作者の狙いだったようです。結末の消化不良に…

サン=テグジュペリ『ちいさな王子』

サン=テグジュペリ 野崎歓訳 『ちいさな王子』 光文社古典新訳文庫 サン=テグジュペリ(1900-1944)の『ちいさな王子』を読了しました。日本でも大人気の本作品については、翻訳出版権がなくなってから多くの翻訳が出されましたが、岩波書店の内藤濯訳以外を…

ケストナー『飛ぶ教室』

ケストナー 丘沢静也訳 『飛ぶ教室』 光文社古典新訳文庫 ケストナー(1899-1974)の『飛ぶ教室』を読了しました。新潮文庫の新訳でこの作品を読んだのは、およそ4年半前のことでしたが、本書が古本屋で100円で売られているのを見つけて、このたびの読書とな…

吉村達也『美しき薔薇色の殺人』

吉村達也 『美しき薔薇色の殺人』 角川文庫 吉村達也の『美しき薔薇色の殺人』を読了しました。トリッキーなミステリー小説を志向していたこれまでのシリーズ作品に比べると、それとは別のものに比重を置いたと思われる作品作りがなされているようです。かつ…

吉村達也『由布院温泉殺人事件』

吉村達也 『由布院温泉殺人事件』 講談社文庫 吉村達也の『由布院温泉殺人事件』を読了しました。作品の出来栄えという以前に、本の中に乱丁があって、そもそもストーリーを追うことができないという珍しい状況を迎えて、何とも不完全燃焼な読書となりました…

カーソン・マッカラーズ『心は孤独な狩人』

カーソン・マッカラーズ 村上春樹訳 『心は孤独な狩人』 新潮社 カーソン・マッカラーズ(1917-1967)の『心は孤独な狩人』を読了しました。1940年に作者が23歳の若さで発表した本書が、当時のアメリカの社会において驚きをもって迎えられたということは容易…

法月綸太郎『誰彼』

法月綸太郎 『誰彼』 講談社文庫 法月綸太郎の『誰彼』を読了しました。コリン・デクスターの作品を意識したというだけあって、初めて読んだときは複雑に展開するプロットに翻弄された記憶があるのですが、今回あらためて読み返してみると、それなりにすっき…

島田荘司『灰の迷宮』

島田荘司 『灰の迷宮』 光文社文庫 島田荘司の『灰の迷宮』を読了しました。作者のセンチメンタリズムがよく出た作品で、地味ながら印象に残る小説です。 【満足度】★★★☆☆

星新一『ボンボンと悪夢』

星新一 『ボンボンと悪夢』 新潮文庫 星新一の『ボンボンと悪夢』を読了しました。こうしてあらためて作者のショートショートを読んでみると、比較的長めの作品からかなり短いもの、オチまでの道筋がシンプルに描かれる作品もあれば、捻りの加えられた作品も…

早坂吝『メーラーデーモンの戦慄』

早坂吝 『メーラーデーモンの戦慄』 講談社ノベルス 早坂吝の『メーラーデーモンの戦慄』を読了しました。過去のシリーズ作品を読んだことがある読者が楽しむことができる要素をはじめとして、正しい答えに辿り着かせるつもりのない(?)読者への挑戦状も、…

今野敏『隠蔽捜査』

今野敏 『隠蔽捜査』 新潮文庫 今野敏の『隠蔽捜査』を読了しました。いまや人気シリーズとなっている異色の警察小説の第一作目です。刊行当初からシリーズ化の構想があったのかどうかについてはよく分からないのですが、主人公の唯一無二のキャラクター造形…

村上春樹『辺境・近境』

村上春樹 『辺境・近境』 新潮文庫 村上春樹の『辺境・近境』を読了しました。アメリカのイースト・ハンプトン、瀬戸内海の無人島、メキシコ、香川県、ノモンハン、アメリカ大陸横断、そして作者が少年時代を過ごした街である神戸と、辺境と近境を巡る旅行記…

吉村達也『姉妹』

吉村達也 『姉妹』 角川ホラー文庫 吉村達也の『姉妹』を読了しました。韓国映画『箪笥』のいわば解題としての役割も担うというホラー小説です。正直なところ、これならば映画を見れば十分という気もしないではないのですが。 【満足度】★★☆☆☆

ピエール・ルメートル『僕が死んだあの森』

ピエール・ルメートル 橘明美訳 『僕が死んだあの森』 文春文庫 ピエール・ルメートル(1951-)の『僕が死んだあの森』を読了しました。比較的短い作品なのですが、よく出来たクライムノベルです。作者お得意の意外な展開はやや影を潜めているというか、若干…

北村薫『玻璃の天』

北村薫 『玻璃の天』 文春文庫 北村薫の『玻璃の天』を読了しました。シリーズ第二弾となる作品ですが、作者らしい細やかな伏線を張り巡らせた本格ミステリーであり、優れた歴史小説にもなっていると思います。登場人物を巡る謎にも進展があって、物語のクラ…

マリオ・バルガス=ジョサ『嘘から出たまこと』

マリオ・バルガス=ジョサ 寺尾隆吉訳 『嘘から出たまこと』 現代企画室 マリオ・バルガス=ジョサ(1936-)の『嘘から出たまこと』を読了しました。後にノーベル賞を受賞することになる作家の手になる書評集・評論集です。作者がその影響を公言するアンドレ…

フーケー『水妖記(ウンディーネ)』

フーケー 柴田治三郎訳 『水妖記(ウンディーネ)』 岩波文庫 フーケー(1777-1843)の『水妖気(ウンディーネ)』を読了しました。プロイセン王国でフランス人の父とドイツ人の母との間に生まれたフーケーは、軍人を辞めた後に作家となり、現代であればファ…

平野啓一郎『本心』

平野啓一郎 『本心』 文藝春秋 平野啓一郎の『本心』を読了しました。四半世紀後の日本という近未来を舞台に、現実の社会に確かな眼差しを据えたまま、まっすぐな思索の道筋を小説というかたちで綴ってみせた作品です。物語に登場する老作家を評して言われる…

吉村達也『セカンド・ワイフ』

吉村達也 『セカンド・ワイフ』 集英社文庫 吉村達也の『セカンド・ワイフ』を読了しました。主に集英社から刊行されている、作者が「心理サスペンス」と名付けている作品群のうちの一冊で、お互いの理想や打算のもとで成立する結婚を巡る不協和のうちに潜む…

ディケンズ『クリスマス・キャロル』

ディケンズ 池央耿 『クリスマス・キャロル』 光文社古典新訳文庫 ディケンズ(1812-1870)の『クリスマス・キャロル』を読了しました。随分と昔に読んだのは新潮文庫の翻訳で、古めかしい装丁が懐かしく思い出されるのですが、21世紀になってからの新訳で、…

高里椎奈『銀の檻を溶かして』

高里椎奈 『銀の檻を溶かして』 講談社文庫 高里椎奈の『銀の檻を溶かして』を読了しました。第11回メフィスト賞受賞作ということで手に取った作品なのですが、ヤングアダルトの装いのもとで、想像よりもミステリーとたろうとする意思の感じられる小説でした…

吉村達也『ナイトメア』

吉村達也 『ナイトメア』 角川ホラー文庫 吉村達也の『ナイトメア』を読了しました。韓国映画のノベライズ(作者の意図としては書き下ろし)ですが、作者の良さというものが発揮されているとは思われず、やや中途半端になってしまっているという印象です。 …