文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

『エドマンド・ウィルソン批評集2 文学』

中村紘一・佐々木徹・若島正訳 『エドマンド・ウィルソン批評集2 文学』 みすず書房 『エドマンド・ウィルソン批評集2 文学』を読了しました。本書に収録された「ヘンリー・ジェイムズの曖昧性」は、ヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』を対象として家庭教…

パスカル『パンセ』

パスカル 塩川徹也訳 『パンセ』 岩波文庫 パスカル(1623-1662)の『パンセ』を読了しました。以前に私が『パンセ』を読んだのは中公文庫の訳で、たしかブランシュヴィック版をもとにした翻訳だったと思います。未完の著作というよりは後世の人間が集積した…

児玉聡『功利主義入門―はじめての倫理学』

児玉聡 『功利主義入門―はじめての倫理学』 ちくま新書 児玉聡の『功利主義入門―はじめての倫理学』を読了しました。功利主義を主軸に据えた倫理学の入門書です。功利主義への偏見に満ちた非難は一種のわら人形攻撃であるとして、著者はバランスの取れた功利…

J・アップダイク『帰ってきたウサギ』

J・アップダイク 井上謙治訳 『帰ってきたウサギ』 新潮社 J・アップダイク(1932-2009)の『帰ってきたウサギ』を読了しました。高校時代はバスケットボールの花形選手だった「ウサギ」ことハリー・アングストロームは、前作『走れウサギ』から10歳年をとっ…

横山秀夫『ノースライト』

横山秀夫 『ノースライト』 新潮社 横山秀夫の『ノースライト』を読了しました。2012年に発表された『64』も久しぶりの作品となりましたが、今年発表された本作もそれから実に9年ぶりの作品となります。もっとも本作は2004年から2006年に一度雑誌連載されて…

『エドマンド・ウィルソン批評集1 社会・文明』

中村紘一・佐々木徹訳 『エドマンド・ウィルソン批評集1 社会・文明』みすず書房 『エドマンド・ウィルソン批評集1 社会・文明』を読了しました。エドマンド・ウィルソン(1895-1972)は20世紀を代表するアメリカの文芸批評家です。本作はジャーナリストの視…

トルストイ『人生論』

トルストイ 中村融訳 『人生論』 岩波文庫 トルストイ(1828-1910)の『人生論』を読了しました。本書は、トルストイがある出版社の記者をしていたという女性から送られてきた手紙に返書するかたちで書き始められたものだといいます。1886年に書かれたという…

ジャック・ロンドン『白い牙』

ジャック・ロンドン 白石佑光訳 『白い牙』 新潮文庫 ジャック・ロンドン(1876-1916)の『白い牙』を読了しました。ホワイト・ファングと呼ばれるオオカミの姿を描いた「動物小説」です。乾いた文体は野生の血が知らせる「掟」の存在をうまく描けていると思…

大江健三郎『あいまいな日本の私』

大江健三郎 『あいまいな日本の私』 岩波新書 大江健三郎の『あいまいな日本の私』を読了しました。本書には1994年のノーベル文学賞受賞時の記念講演をはじめ、新聞社主催の医療フォーラム、コンサートホール、井伏鱒二さんを偲ぶ会など、全部で9編の講演が…

ジュリー・オオツカ『屋根裏の仏さま』

ジュリー・オオツカ 岩本正恵 小竹由美子 訳 『屋根裏の仏さま』 新潮社 ジュリー・オオツカの『屋根裏の仏さま』を読了しました。一人称複数の「わたしたち」の語りが独特で、そこから醸し出される「ひとつの声」の存在が、歴史や物語を紡ぐための装置とし…

ヴァージニア・ウルフ『壁のしみ』

ヴァージニア・ウルフ 川本静子訳 『壁のしみ 短編集』 みすず書房 ヴァージニア・ウルフ(1882-1941)の『壁のしみ』を読了しました。「ヴァージニア・ウルフ コレクション」を読むのは本書で四冊目になります。15の短編が収録されており、それらが発表年代…

J・M・G・ル・クレジオ『大洪水』

J・M・G・ル・クレジオ 望月芳郎訳 『大洪水』 河出文庫 J・M・G・ル・クレジオ(1940-)の『大洪水』を読了しました。本書は彼のデビュー作である『調書』以前い書き始められたと言われる初期の長編作品です。「初めに雲があった」という言葉から始まるプロ…

ミランダ・ジュライ『あなたを選んでくれるもの』

ミランダ・ジュライ 岸本佐知子訳 ブリジット・サイアー 写真 『あなたを選んでくれるもの』 新潮社 ミランダ・ジュライの『あなたを選んでくれるもの』を読了しました。アメリカのパフォーマンスアーティスト・映画監督・作家であるジュライが初小説集『い…

村上春樹・安西水丸『象工場のハッピーエンド』

村上春樹・安西水丸 『象工場のハッピーエンド』 新潮文庫 村上春樹=文・安西水丸=画の『象工場のハッピーエンド』を読了しました。高校時代に古本屋で買って読んだ記憶があるのですが、何となく再読したくなって書店で新品を購入して手に取ることになりま…

ユルスナール『とどめの一撃』

ユルスナール 岩崎力訳 『とどめの一撃』 岩波文庫 ユルスナール(1903-87)の『とどめの一撃』を読了しました。ユルスナールの作品を読むのは今回が初めてです。ユルスナールのおよそ20歳年長であるヴァージニア・ウルフが『自分だけの部屋』の中で、その時…

コルム・トビーン『マリアが語り遺したこと』

コルム・トビーン 栩木伸明訳 『マリアが語り遺したこと』 新潮社 コルム・トビーン(1955-)の『マリアが語り遺したこと』を読了しました。著者はアイルランド出身のジャーナリスト・作家で、現在ではアメリカの大学で創作を教えているそうです。本書は中編…

德永恂『現代思想の断層―「神なき時代」の模索』

德永恂 『現代思想の断層―「神なき時代」の模索』 岩波新書 德永恂の『現代思想の断層―「神なき時代」の模索』を読了しました。閉店してしまう近所の本屋でセール販売されていたのを手に取ったのが、本書購入のきっかけです。岩波書店の本はこういうときに、…

トーマス・マン『トーニオ・クレーガー 他一篇』

トーマス・マン 平野卿子訳 『トーニオ・クレーガー』 河出文庫 トーマス・マン(1875-1955)の『トーニオ・クレーガー 他一篇』を読了しました。本作は高校時代に読んだような記憶があるのですが、あまり確かなところは覚えていません。大学時代にもたしか…

イアン・マキューアン『甘美なる作戦』

イアン・マキューアン 村松潔訳 『甘美なる作戦』 新潮社 イアン・マキューアン(1948-)の『甘美なる作戦』を読了しました。原題は“Sweet Tooth”で直訳すれば「甘い歯」ですが、「甘党」というような意味で使われるようです。イギリスの情報機関「MI5」を舞…

カズオ・イシグロ『充たされざる者』

カズオ・イシグロ 古賀林幸訳 『充たされざる者』 ハヤカワ文庫 カズオ・イシグロ(1954-)の『充たされざる者』を読了しました。本書は彼の長編第四作目にあたる作品で、彼が現在までに発表している長編小説で未読だったのは本書だけです。『日の名残り』に…

サド『短編集 恋の罪』

サド 植田祐次訳 『短編集 恋の罪』 岩波文庫 サド(1740-1814)の『短編集 恋の罪』を読了しました。「サディズム」という言葉の由来となったといわれているフランス貴族、マルキ・ド・サドの短編選集です。本書カバーに描かれた解説によれば、本作に収録さ…

伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』

伊勢田哲治 『哲学思考トレーニング』 ちくま新書 伊勢田哲治の『哲学思考トレーニング』を読了しました。本書はいわゆるクリティカルシンキングのスキルについて書かれた本なのですが、そのスキルは著者自身が専門とする哲学・科学哲学・倫理学の思考法をも…

ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』

ホセ・ドノソ 鼓直訳 『夜のみだらな鳥』 水声社 ホセ・ドノソ(1924-1996)の『夜のみだらな鳥』を読了しました。いわゆるラテンアメリカ文学「ブーム」の作家のひとりで、近年は特に評価の高いのが、チリの作家であるホセ・ドノソです。本書はドノソの代表…

細見和之『現代思想の冒険者たち 第15巻 アドルノ―非同一性の哲学』

細見和之 『現代思想の冒険者たち 第15巻 アドルノ―非同一性の哲学』 講談社 細見和之の『現代思想の冒険者たち 第15巻 アドルノ―非同一性の哲学』を読了しました。大学時代に一度読んだような気もするのですが、今回あらためて再読に近いかたちで読み直して…

ポール・オースター、J・M・クッツェー『ヒア・アンド・ナウ 往復書簡 2008-2011』

ポール・オースター、J・M・クッツェー くぼたのぞみ・山崎暁子訳 『ヒア・アンド・ナウ 往復書簡 2008-2011』 岩波書店 ポール・オースターとJ・M・クッツェーの間で取り交わされた書簡集である『ヒア・アンド・ナウ 往復書簡 2008-2011』を読了しました。…

カルロ・レーヴィ『キリストはエボリで止まった』

カルロ・レーヴィ 竹山博英訳 『キリストはエボリで止まった』 岩波文庫 カルロ・レーヴィ(1902-1975)の『キリストはエボリで止まった』を読了しました。イタリアの政治活動家であるレーヴィが、反ファシスト活動の末に南イタリアの僻地に流刑され過ごした…

パトリック・モディアノ『さびしい宝石』

パトリック・モディアノ 白井成雄訳 『さびしい宝石』 作品社 パトリック・モディアノ(1945-)の『さびしい宝石』を読了しました。原題は“La petite bijou”で直訳だと「小さな宝石」となります。モディアノはナチス占領下時代のパリ(のみ)を舞台に作品を…

信原幸弘『心の現代哲学』

信原幸弘 『心の現代哲学』 勁草書房 信原幸弘の『心の現代哲学』を読了しました。本書の出版は1999年で、今からちょうど20年前のこととなります。「心とはいかなるものか」という問いに対して、認知科学や脳神経科学などの成果に寄り添うかたちで語ろうとす…

ドン・デリーロ『ポイント・オメガ』

ドン・デリーロ 都甲幸治訳 『ポイント・オメガ』 水声社 ドン・デリーロ(1936-)の『ポイント・オメガ』を読了しました。本文にして150ページ足らずの中編作品で、美術館(ニューヨーク近代美術館なのでしょう)とカリフォルニア州サンディエゴの砂漠とい…

ジュンパ・ラヒリ『低地』

ジュンパ・ラヒリ 小川高義訳 『低地』 新潮社 ジュンパ・ラヒリ(1967-)の『低地』を読了しました。インド・カルカッタ出身の両親のもとで生まれてアメリカで生まれ育ったラヒリが、「故郷」であるカルカッタ出身の兄弟をめぐる人生模様を描いた長編作品で…