文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2020-01-01から1年間の記事一覧

イーユン・リー『千年の祈り』

イーユン・リー 篠森ゆりこ訳 『千年の祈り』 新潮社 イーユン・リー(1972-)の『千年の祈り』を読了しました。中国の北京で生まれた著者は1996年に渡米した後、英語で小説を書くことを選んだそうです。2005年に刊行されたデビュー短編集である本書は「第1…

魯迅『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇』

魯迅 竹内好訳 『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇』 岩波文庫 魯迅(1881-1936)の『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇』を読了しました。子どもの頃に教科書だか何だかで読んだ記憶はあるのですが、それ以来の読書となります。きちんと全編を読むという意味では初めて…

ジョルジュ・ペレック『煙滅』

ジョルジュ・ペレック 塩塚秀一郎訳 『煙滅』 水声社 ペレックの『煙滅』を読了。ペレックがこの本でたくらんだことを前もって把握せぬまま、この本を読む者はわずかだろうと考えるとすると、過度なネタバレへの恐れは無用なことなのですが、それでも本稿で…

レベッカ・ブラウン『若かった日々』

レベッカ・ブラウン 柴田元幸訳 『若かった日々』 新潮文庫 レベッカ・ブラウン(1956-)の『若かった日々』を読了しました。原題は“The End of Youth”となっています。「自伝的短編集」であると喧伝されていますが、家族や周囲との関わりのなかで過ごす若か…

カルミネ・アバーテ『偉大なる時のモザイク』

カルミネ・アバーテ 栗原俊秀訳 『偉大なる時のモザイク』 未知谷 カルミネ・アバーテ(1954-)の『偉大なる時のモザイク』を読了しました。本書は『帰郷の祭り』に続いて2006年に発表された作品のようです。作者自身の生まれ故郷を思わせるイタリア南部のカ…

ジョン・ニコルズ『卵を産めない郭公』

ジョン・ニコルズ 村上春樹訳 『卵を産めない郭公』 新潮文庫 ジョン・ニコルズ(1940-)の『卵を産めない郭公』を読了しました。以前にハヤカワ文庫から『くちづけ』というタイトルで翻訳された作品で、このたびは村上柴田翻訳堂の一冊として村上氏による翻…

ドン・デリーロ『天使エスメラルダ 9つの物語』

ドン・デリーロ 柴田元幸・上岡伸雄・都甲幸治・高吉一郎訳 『天使エスメラルダ 9つの物語』 新潮社 ドン・デリーロ(1936-)の『天使エスメラルダ 9つの物語』を読了しました。本書には表題のとおりに9つの短編作品が発表年代順に収録されています。古いも…

マリオ・バルガス=リョサ『アンデスのリトゥーマ』

マリオ・バルガス=リョサ 木村榮一訳 『アンデスのリトゥーマ』 岩波書店 マリオ・バルガス=リョサ(1936-)の『アンデスのリトゥーマ』を読了しました。本書が発表されたのは1993年で、邦訳が刊行されたのは2010年のノーベル文学賞受賞後のタイミングとなる…

ロベルト・ボラーニョ『通話』

ロベルト・ボラーニョ 松本健二訳 『通話』 白水社 ロベルト・ボラーニョ(1953-2003)の『通話』を読了しましたいわゆる「ブーム」を形作ったラテンアメリカ文学の系譜とは少し世代を画する、若きチリの作家・ボラーニョですが、50歳の若さで亡くなった後は…

シュテファン・ツヴァイク『マリー・アントワネット』

シュテファン・ツヴァイク 中野京子訳 『マリー・アントワネット』 角川文庫 シュテファン・ツヴァイク(1881-1942)の『マリー・アントワネット』を読了しました。不確かな記憶なのですが、子どもの頃に読んだ赤川次郎さんのエッセイで「シュテファン・ツヴ…

オルハン・パムク『雪』

オルハン・パムク 宮下遼訳 『雪』 ハヤカワ文庫 オルハン・パムク(1952-)の『雪』を読了しました。トルコのノーベル文学賞受賞者オルハン・パムクの現代小説です。以前に読んだ『わたしの名は赤』がオスマン=トルコ帝国時代を舞台にした歴史小説であった…

山本明利・左巻健男編著『新しい高校物理の教科書』

山本明利・左巻健男編著 『新しい高校物理の教科書』 講談社 山本明利・左巻健男編著『新しい高校物理の教科書』を読了しました。いまさらのように高校物理の学び直しなのですが、公式の斜め読みではあまり知識が蘇ってきたという感覚はなく、やはり手を動か…

マヌエル・プイグ『蜘蛛女のキス』

マヌエル・プイグ 野谷文昭訳 『蜘蛛女のキス』 集英社文庫 マヌエル・プイグ(1932-1990)の『蜘蛛女のキス』を読了しました。アルゼンチンの作家プイグは、ガルシア=マルケスよりはやや年下で、バルガス=リョサよりはやや年上という年代にあたり、サブカル…

内山勝利 責任編集『哲学の歴史 第2巻 帝国と賢者【古代Ⅱ】』

内山勝利 責任編集 『哲学の歴史 第2巻 帝国と賢者【古代Ⅱ】』 中央公論新社 『哲学の歴史 第2巻 帝国と賢者【古代Ⅱ】』を読了しました。本巻では、エピクロス学派、初期ストア学派から始まって、古代懐疑主義、中期ストア学派、ヘレニズム期の科学思想、ロ…

古川日出男『ゴッドスター』

古川日出男 『ゴッドスター』 新潮文庫 古川日出男の『ゴッドスター』を読了しました。2007年に発表された本書は、既に一定の読者と評価を得ていた著者が、単なる若書きということではなく極めて意図的に創作した作品なのだと推察しますが、作品の特徴を一言…

乗代雄介『十七八より』

乗代雄介 『十七八より』 講談社 乗代雄介の『十七八より』を読了しました。第58回群像新人文学賞受賞作で、著者のデビュー作品です。主人公である女子高生の日常が、著者の読書量に裏打ちされたペダンチックな筆致で描かれています。主人公の言動の裏側に見…

ジョン・チーヴァー『巨大なラジオ/泳ぐ人』

ジョン・チーヴァー 村上春樹訳 『巨大なラジオ/泳ぐ人』 新潮社 ジョン・チーヴァー(1912-1982)の『巨大なラジオ/泳ぐ人』を読了しました。雑誌『ザ・ニューヨーカー』御用達の作家で、短編小説の名手といわれたチーヴァーの選集です。作品のセレクトも…

R・ラードナー『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』

R・ラードナー 加島祥造訳 『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』 新潮文庫 R・ラードナー(1885-1933)の『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』を読了しました。ラードナーは年代的にはヘミングウェイやフォークナーよりも少し上の世代に属し、若き日の…

グレアム・スウィフト『ウォーターランド』

グレアム・スウィフト 真野泰訳 『ウォーターランド』 新潮社 グレアム・スウィフト(1949-)の『ウォーターランド』を読了しました。現代イギリス作家であるスウィフトの小説を読むのは中編作品『マザリング・サンデー』に続いて二冊目となります。本書は翻…

J・M・クッツェー『夷狄を待ちながら』

J・M・クッツェー 土岐恒二訳 『夷狄を待ちながら』 集英社文庫 J・M・クッツェー(1940-)の『夷狄を待ちながら』を読了しました。本書はクッツェーの第三作目となる長編小説で、ブッカー賞を受賞した『マイケル・K』の三年前に発表された作品です。発表さ…

P・G・ウッドハウス『ジーヴズの事件簿 才知縦横の巻』

P・G・ウッドハウス 岩永正勝・小山太一編訳 『ジーヴズの事件簿 才知縦横の巻』 文春文庫 P・G・ウッドハウス(1881-1975)の『ジーヴズの事件簿 才知縦横の巻』を読了しました。イギリスのユーモア作家であるウッドハウスの「ジーヴスシリーズ」の作品を独…

ウンベルト・エーコ『バウドリーノ』

ウンベルト・エーコ 堤康徳訳 『バウドリーノ』 岩波文庫 ウンベルト・エーコ(1932-2016)の『バウドリーノ』を読了しました。イタリアの記号学者・哲学者であるエーコは、映画化もされたベストセラー小説の作家としてもよく知られています。中世ヨーロッパ…

『カート・ヴォネガット全短編 4 明日も明日もその明日も』

大森望 監修・浅倉久志 他 訳 『カート・ヴォネガット全短編 4 明日も明日もその明日も』 早川書房 『カート・ヴォネガット全短編 4 明日も明日もその明日も』を読了しました。ヴォネガットの短編全集は本書で最後となります。「ふるまい」、「リンカーン高…

ジョージ・オーウェル『動物農場』

ジョージ・オーウェル 川端康雄訳 『動物農場』 岩波文庫 ジョージ・オーウェル(1903-1950)の『動物農場』を読了しました。ディストピア小説である『1984年』の著者として知られるオーウェルのいわずと知れた寓話ですが、きちんと読むのは初めてのことのよ…

ミシェル・ウエルベック『ある島の可能性』

ミシェル・ウエルベック 中村佳子訳 『ある島の可能性』 角川書店 ミシェル・ウエルベック(1956-)の『ある島の可能性』を読了しました。2005年に発表された本書は、著者の小説作品としては五冊目のものとなります。『闘争領域の拡大』で開かれた問題圏を背…

村上春樹『猫を棄てる 父親について語るとき』

村上春樹 『猫を棄てる 父親について語るとき』 文藝春秋 村上春樹の『猫を棄てる 父親について語るとき』を読了しました。これまでほとんど家族について語ることがなかった村上氏が父親の死を契機として、書き記しておかなければならないという思いから書き…

ゴーゴリ『鼻/外套/査察官』

ゴーゴリ 浦雅春訳 『鼻/外套/査察官』 光文社古典新訳文庫 ゴーゴリ(1809-1852)の『鼻/外套/査察官』を読了しました。ウクライナ出身のロシア作家ゴーゴリの代表的な短編作品と戯曲作品が収録されています。「鼻」と「外套」は他の訳でも読んだことが…

大江健三郎・古井由吉『文学の淵を渡る』

大江健三郎・古井由吉 『文学の淵を渡る』 新潮文庫 大江健三郎と古井由吉の対談集『文学の淵を渡る』を読了しました。戦後日本を代表する作家である大江健三郎と古井由吉との間で行われた、古くは1993年、最近のものでは2015年の対談を収録したのが本書です…

『対訳 イェイツ詩集』

高松雄一編 『対訳 イェイツ詩集』 岩波文庫 高松雄一編『対訳 イェイツ詩集』を読了しました。アイルランドの詩人・劇作家であるイェイツ(1865-1939)の対訳詩集で、本書には54編の詩が収録されています。二十世紀に活躍したイェイツは、世界文学の詩人と…

ディケンズ『荒涼館』

ディケンズ 佐々木徹訳 『荒涼館』 岩波文庫 ディケンズ(1812-1870)の『荒涼館』を読了しました。原題は“Bleak House”です。1852年から1853年にかけて発表された小説で、『デイヴィッド・コパフィールド』の次に書かれた作品になります。「ジャーンダイス…