文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

マイクル・コナリー『レイトショー』

マイクル・コナリー 古沢嘉通訳 『レイトショー』 講談社文庫 マイクル・コナリーの『レイトショー』を読了しました。マイケル・ボッシュを主人公とする一連のシリーズで知られるコナリーですが、今回の作品はロス市警に勤める女性刑事レネイ・バラードを主…

『対訳 ディキンソン詩集―アメリカ詩人選(3)』

亀井俊介訳 『対訳 ディキンソン詩集―アメリカ詩人選(3)』 岩波文庫 『対訳 ディキンソン詩集―アメリカ詩人選(3)』を読了しました。ポー、ホイットマン、フロストなどの対訳も刊行されている岩波文庫の対訳アメリカ詩人選集ですが、今回読むのはエミリー…

ウィリアム・トレヴァー『ラスト・ストーリーズ』

ウィリアム・トレヴァー 栩木伸明訳 『ラスト・ストーリーズ』 国書刊行会 ウィリアム・トレヴァー(1928-2016)の『ラスト・ストーリーズ』を読了しました。アイルランド出身の作家トレヴァーの最後の作品集が本書で、10編の短編作品が収録されています。掬…

大江健三郎『キルプの軍団』

大江健三郎 『キルプの軍団』 岩波文庫 大江健三郎の『キルプの軍団』を読了しました。ブレイクやダンテをはじめとして海外の文学作品を読解することをモチーフに、自身の小説の推進力としてきた大江氏ですが、本作ではディケンズの書いた『骨董屋』を読む刑…

J・S・ミル『自由論』

J・S・ミル 関口正司訳 『自由論』 岩波文庫 J・S・ミル(1806-1873)の『自由論』を読了しました。経験主義に立脚する哲学者であり論理学や科学哲学の嚆矢となる業績を残し、倫理学の分野ではベンサムの功利主義を発展させ、さらには経済学に関する論考も残…

『大江健三郎 作家自身を語る』

大江健三郎 聞き手・構成 尾崎真理子 『大江健三郎 作家自身を語る』 新潮文庫 『大江健三郎 作家自身を語る』を読了しました。2000年代に行われたロングインタビューのまとめに、東日本大震災を経た後に行われたインタビューを加えた増補版です。デビュー前…

ピエール・ルメートル『死のドレスを花婿に』

ピエール・ルメートル 吉田恒雄訳 『死のドレスを花婿に』 文春文庫 ピエール・ルメートル(1951-)の『死のドレスを花婿に』を読了しました。カミーユ・ヴェルーヴェン警部を主人公とする「容赦の無い」サスペンスプロットで知られるルメートルが2009年に発…

J・G・バラード『太陽の帝国』

J・G・バラード 山田和子訳 『太陽の帝国』 創元SF文庫 J・G・バラード(1930-2009)の『太陽の帝国』を読了しました。『ハイ・ライズ』以来の読書となる二冊目のバラード作品は、1934年に発表されてブッカー賞候補作ともなったベストセラー作品で、バラード…

ソポクレース『アンティゴネー』

ソポクレース 中務哲郎訳 『アンティゴネー』 岩波文庫 ソポクレス(前497/6頃-前406/5頃)の『アンティゴネー』を読了しました。オイディプスの娘であるアンティゴネーを主人公とするギリシア悲劇の一作です。オイディプスの死後、王権についたクレオーン(…

フォークナー『八月の光』

フォークナー 諏訪部浩一訳 『八月の光』 岩波文庫 フォークナー(1897-1962)の『八月の光』を読了しました。1932年に発表された作品でヨクナパトーファ・サーガの一作とされますが、原題である“Light in August”は当初は“Dark House”であったといわれます…

A・デュマ『ダルタニャン物語』

A・デュマ 鈴木力衛訳 『ダルタニャン物語』 ブッキング アレクサンドル・デュマ・ペール(1802-1870)の『ダルタニャン物語』を読了しました。日本でもつとに有名な『三銃士』(1844)を嚆矢として、『二十年後』(1845)、そして『ブラジュロンヌ子爵』(1…

筒井康隆『夢の木坂分岐点』

筒井康隆 『夢の木坂分岐点』 新潮文庫 筒井康隆の『夢の木坂分岐点』を読了しました。谷崎潤一郎賞受賞作ということで、随分と昔に読んだ記憶はあるのですが、いつのことだったかまでは覚えていません。あり得べき生が分岐的に展開されていくプロットは、そ…

桜井哲夫『現代思想の冒険者たち 第26巻 フーコー―知と権力』

桜井哲夫 『現代思想の冒険者たち 第26巻 フーコー―知と権力』 講談社 桜井哲夫の『現代思想の冒険者たち 第26巻 フーコー―知と権力』を読了しました。1990年代後半に公刊された「現代思想の冒険者たち」シリーズの一冊です。博士論文である『狂気の歴史』、…

ソポクレス『オイディプス王』

ソポクレス 藤沢令夫 『オイディプス王』 岩波文庫 ソポクレス(前497/6頃-前406/5頃)の『オイディプス王』を読了しました。言わずとしれた古代ギリシア悲劇のマスターピースです。ソポクレスは120以上もの戯曲を制作したそうですが、そのほとんどは散逸し…

冨田恭彦『バークリの『原理』を読む――「物質否定論」の論理と批判』

冨田恭彦 『バークリの『原理』を読む――「物質否定論」の論理と批判』 勁草書房 冨田恭彦の『バークリの『原理』を読む――「物質否定論」の論理と批判』を読了しました。『観念論の教室』などのこれまでの冨田氏の著作においても展開されている、バークリーの…

イアン・マキューアン『恋するアダム』

イアン・マキューアン 村松潔訳 『恋するアダム』 新潮社 イアン・マキューアン(1948-)の『恋するアダム』を読了しました。原題は“Machines Like Me”で、相変わらず意訳したタイトルをつけるのはマキューアン作品翻訳の定番なのでしょうか。マキューアン自…

コーネリス・ドヴァール『パースの哲学について本当のことを知りたい人のために』

コーネリス・ドヴァール 大沢秀介訳 『パースの哲学について本当のことを知りたい人のために』 勁草書房 コーネリス・ドヴァールの『パースの哲学について本当のことを知りたい人のために』を読了しました。原題は“A Guide For The Perplexed, Peirce”で「困…

スティーヴン・キング『アトランティスのこころ』

スティーヴン・キング 白石朗訳 『アトランティスのこころ』 新潮文庫 スティーヴン・キング(1947-)の『アトランティスのこころ』を読了しました。1999年に発表された作品で2001年には映画化されているようです。時系列に沿って並べられた複数の中短編作品…

『ヘンリージェイムズ作品集1 ある婦人の肖像』

行方昭夫訳 『ヘンリージェイムズ作品集1 ある婦人の肖像』 国書刊行会 『ヘンリージェイムズ作品集1 ある婦人の肖像』を読了しました。1881年に発表されたヘンリー・ジェイムズ(1843-1916)の代表作で、アメリカ人女性イザベル・アーチャーを主人公とする…

モーパッサン『メゾン テリエ 他三篇』

モーパッサン 河盛好蔵訳 『メゾン テリエ 他三篇』 岩波文庫 モーパッサン(1850-1893)の『メゾン テリエ 他三篇』を読了しました。表題作の他に収録されているのは「聖水授与者」「ジュール伯父」「クロシェット」の三篇です。年代も様々に異なる作品がま…

チャールズ・テイラー『今日の宗教の諸相』

チャールズ・テイラー 伊藤邦武・佐々木崇・三宅岳史訳 『今日の宗教の諸相』 岩波書店 チャールズ・テイラー(1931-)の『今日の宗教の諸相』を読了しました。カナダの政治哲学者で非常に幅広い分野での論考で知られるチャールズ・テイラーは、現代において…

スタインベック『ハツカネズミと人間』

スタインベック 大浦暁生訳 『ハツカネズミと人間』 新潮文庫 スタインベック(1902-1968)の『ハツカネズミと人間』を読了しました。ゲイリー・シニーズ主演(監督も務めていたそうですが)の映画のシーンが印刷された文庫本のカバーが印象に残っているので…

『パウル・ツェラン全詩集Ⅱ』

中村朝子訳 『パウル・ツェラン全詩集Ⅱ』 青土社 『パウル・ツェラン全詩集Ⅱ』を読了しました。本書にはパウル・ツェラン(1920-1970)の著した以下の詩集が収録されています。 『息の転換(Atemwende)』,1967 『糸の太陽たち(Fadensonnen)』,1968 『光輝…

コリン・デクスター『ジェリコ街の女』

コリン・デクスター 大庭忠男訳 『ジェリコ街の女』 ハヤカワ文庫 コリン・デクスター(1930-)の『ジェリコ街の女』を読了しました。原題は“The Dead of Jericho”です。頭の中で捏ねられる論理によって操作を行う異色の警官を主人公とした「モース警部」シ…

マリオ・バルガス=リョサ『悪い娘の悪戯』

マリオ・バルガス=リョサ 八重樫克彦・八重樫由貴子訳 『悪い娘の悪戯』 作品社 マリオ・バルガス=リョサ(1936-)の『悪い娘の悪戯』を読了しました。『楽園への道』に続いて2006年に発表された本書は「恋愛小説」と呼ぶにふさわしい作品なのですが、作品発…

シュトルム『大学時代・広場のほとり 他四篇』

シュトルム 関泰祐訳 『大学時代・広場のほとり 他四篇』 岩波文庫 シュトルム(1817-1888)の『大学時代・広場のほとり 他四篇』を読了しました。表題先のほか「おもかげ」「一ひらの緑の葉」「アンゲーリカ」「レナ・ヴィーナス」の四作品が収録されていま…

青木淳悟『このあいだ東京でね』

青木淳悟 『このあいだ東京でね』 新潮社 青木淳悟の『このあいだ東京でね』を読了しました。何かに憑依したトレース小説という一風変わった特徴を持つ青木淳悟死の作品集です。依り代となっているのは、物理空間的な街そのものであったり、建築工学であった…

ジェフリー・ユージェニデス『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』

ジェフリー・ユージェニデス 佐々田雅子訳 『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』 ハヤカワ文庫 ジェフリー・ユージェニデス(1960-)の『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』を読了しました。原題は“The Virgin Suicides”で、ほぼオリジナルと言っても…

G・ガルシア=マルケス『わが悲しき娼婦たちの思い出』

G・ガルシア=マルケス 木村榮一訳 『わが悲しき娼婦たちの思い出』 新潮社 G・ガルシア=マルケス(1928-2014)の『わが悲しき娼婦たちの思い出』を読了しました。2004年に発表されたガルシア=マルケスの最後の小説作品です。長編作品というにはあまりに短く…

J・D・サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』

J・D・サリンジャー 柴田元幸訳 『ナイン・ストーリーズ』 ヴィレッジブックス J・D・サリンジャー(1919-2010)の『ナイン・ストーリーズ』を読了しました。3年ほど前に新潮文庫の野崎氏の訳で読んだのですが(さらにその昔、高校生の頃にも読んだ記憶があ…