文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2022-01-01から1年間の記事一覧

マラマッド『マラマッド短編集』

マラマッド 加島祥造訳 『マラマッド短編集』 新潮文庫 バーナード・マラマッド(1914-1986)の『マラマッド短編集』を読了しました。本書は1971年に新潮文庫から刊行されたもので『マラマッド短編集』という邦題が付せられていますが、独自編集された作品集…

大江健三郎『叫び声』

大江健三郎 『叫び声』 講談社文芸文庫 大江健三郎の『叫び声』を読了しました。本書は著者のキャリアの中でも比較的初期に属する作品で、長編作品としては『遅れてきた青年』(1962)と『日常生活の冒険』(1962)の間にあたる1963年に発表されています。ず…

コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』

コルソン・ホワイトヘッド 谷崎由依訳 『地下鉄道』 ハヤカワ文庫 コルソン・ホワイトヘッド(1969-)の『地下鉄道』を読了しました。2016年に刊行され、ピュリッツァー賞、全米図書賞をはじめとする数々の文学賞を受賞した話題の作品である本書は、作者にと…

バタイユ『マダム・エドワルダ/目玉の話』

バタイユ 中条省平 『マダム・エドワルダ/目玉の話』 光文社古典新訳文庫 バタイユ(1897-1962)の『マダム・エドワルダ/目玉の話』を読了しました。本書に収録された二作品のうち、「目玉の話」については『眼球譚』として一年ほど前に河出文庫の翻訳で読…

J・ケルアック『孤独な旅人』

J・ケルアック『孤独な旅人』 J・ケルアック(1922-1969)の『孤独な旅人』を読了しました。本書は1960年に発表された作品で、原題は“The Lonesome Traveller”です。アメリカ、メキシコ、そしてヨーロッパを巡るケルアックの放浪の物語、そして鉄道や山火事…

J. M. G. ル・クレジオ『砂漠』

J. M. G. ル・クレジオ 望月芳郎訳 『砂漠』 河出書房新社 J. M. G. ル・クレジオ(1940-)の『砂漠』を読了しました。1980年に発表された本書は、義務兵役代替のために訪れたメキシコ文化への傾倒と本格的な研究をひとつのバックボーンとして生み出されたと…

滝口悠生『死んでいない者』

滝口悠生 『死んでいない者』 文春文庫 滝口悠生の『死んでいない者』を読了しました。本書は第154回芥川賞の受賞作です。大往生を遂げた男性の通夜に集まった遺族や友人(そのタイトルにある通り「死んでいない者」)たちの人間模様が、しっかりと軸を持っ…

イーヴィリン・ウォー『回想のブライズヘッド』

イーヴィリン・ウォー 小野寺健訳 『回想のブライズヘッド』 岩波文庫 イーヴィリン・ウォー(1903-1966)の『回想のブライズヘッド』を読了しました。原題は“Brideshead Revisited”で、文字通りに訳すと「ブライズヘッド再訪」となります。そのタイトルが表…

シュテファン・ツワイク『ジョゼフ・フーシェ』

シュテファン・ツワイク 高橋禎二・秋山英夫訳 『ジョゼフ・フーシェ』 岩波文庫 シュテファン・ツワイク(1881-1942)の『ジョゼフ・フーシェ』を読了しました。著者の名前は「ツヴァイク」という表記の方が一般的ではないかと思います。伝記作家としてよく…

アンドレイ・サプコフスキ『ウィッチャーⅢ 炎の洗礼』

アンドレイ・サプコフスキ 川野靖子訳 『ウィッチャーⅢ 炎の洗礼』 ハヤカワ文庫 アンドレイ・サプコフスキの『ウィッチャーⅢ 炎の洗礼』を読了しました。ポーランドの人気ファンタジー小説「ウィッチャー」のシリーズ三作目となる長編作品です。主人公であ…

ジェフリー・ディーヴァー『スキン・コレクター』

ジェフリー・ディーヴァー 池田真紀子訳 『スキン・コレクター』 文春文庫 ジェフリー・ディーヴァーの『スキン・コレクター』を読了しました。科学捜査のスペシャリストであるリンカーン・ライムを主人公とするミステリーシリーズの一作です。ページターナ…

タナハシ・コーツ『世界と僕のあいだに』

タナハシ・コーツ 池田年穂訳 『世界と僕のあいだに』 慶應義塾大学出版会 タナハシ・コーツの『世界と僕のあいだに』を読了しました。最近では小説作品も邦訳されましたが、ジャーナリストであり2016年の『タイム』誌が発表する「世界で最も影響力のある100…

舞城王太郎『淵の王』

舞城王太郎 『淵の王』 新潮文庫 舞城王太郎の『淵の王』を読了しました。「恐ろしくて切ない最強ホラー長篇」という帯のコピーは内容の面では当を得ていて、本書ではホラー小説でありながら切ない気分にさせられてしまう物語が展開されています。ただ、長篇…

マイ・シューヴァル/ペール・ヴァールー『煙に消えた男』

マイ・シューヴァル/ペール・ヴァールー 柳沢由美子訳 『煙に消えた男』 角川文庫 マイ・シューヴァルとペール・ヴァールーの『刑事マルティン・ベック 煙に消えた男』を読了しました。ヘニング・マンケルをはじめとする国内の作家はもとより、海外の多くの…

ジョナサン・フランゼン『コレクションズ』

ジョナサン・フランゼン 黒原敏行訳 『コレクションズ』 ハヤカワ文庫 ジョナサン・フランゼン(1959-)の『コレクションズ』を読了しました。2001年に発表されたフランゼンの第三作目の小説である本書は全米図書賞受賞作となり、その他にも数々の賞を受賞し…

エルフリーデ・イェリネク『死者の子供たち』

エルフリーデ・イェリネク 中込啓子・須永恆雄・岡本和子訳 『死者の子供たち』 鳥影社 エルフリーデ・イェリネク(1946-)の『死者の子供たち』を読了しました。オーストリアの小説家・劇作家で2004年のノーベル賞受賞作家です。本書は1995年に発表された著…

有栖川有栖『捜査線上の夕映え』

有栖川有栖 『捜査線上の夕映え』 文藝春秋 有栖川有栖の『捜査線上の夕映え』を読了しました。一時期、テレビドラマにもなっていたようですが、犯罪社会学者の火村英生を主人公とするミステリー小説の最新長編作品です。新型コロナウイルス渦中の事件が描か…

マイクル・コナリー『汚名』

マイクル・コナリー 古沢嘉通訳 『汚名』 講談社文庫 マイクル・コナリー(1956-)の『汚名』を読了しました。ハリー・ボッシュを主人公とするシリーズ小説作品です。第何作目にあたるのかは分からなくなってしまいましたが。原題は“Two Kinds of Truth”です…

川上弘美『蛇を踏む』

川上弘美 『蛇を踏む』 文春文庫 川上弘美の『蛇を踏む』を読了しました。1996年の第115回芥川賞受賞作である表題作に加えて、「消える」、「惜夜記」の三編の作品が収録されています。物語の寓話性をメタ的に意識しながら、それでいて日常に溶け込む(一次…

モンテーニュ『エセー』

モンテーニュ 原二郎訳 『エセー』 岩波文庫 モンテーニュ(1533-1592)の『エセー』を読了しました。言わずと知れた「エッセイ」というジャンルのもととなった作品です。ただ、内容としては日常的な随想というよりは、政治、社会、詩に関するテーマが多く、…

ウィリアム・シェイクスピア『テンペスト』

ウィリアム・シェイクスピア 小田島雄志訳 『テンペスト』 白水Uブックス ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)の『テンペスト』を読了しました。以前「あらし」という邦題で新潮文庫にて読んだ記憶があるのですが、それ以来の読書となります。昔に読ん…

カート・ヴォネガット『スラップスティック』

カート・ヴォネガット 浅倉久志訳 『スラップスティック』 ハヤカワ文庫 カート・ヴォネガット(1922-2007)の『スラップスティック』を読了しました。1976年に発表された長編小説です。本書では、主人公であるウィルバー(プロローグにはめ込まれた「枠」を…

チャック・パラニューク『ファイト・クラブ』

チャック・パラニューク 池田真紀子訳 『ファイト・クラブ』 ハヤカワ文庫 チャック・パラニューク(1962-)の『ファイト・クラブ』を読了しました。デヴィッド・フィンチャー監督のもとブラッド・ピットが主演して大ヒットした映画については、私は未視聴だ…

ヘニング・マンケル『背後の足音』

ヘニング・マンケル 柳沢由実子訳 『背後の足音』 創元推理文庫 ヘニング・マンケル(1948-2015)の『背後の足音』を読了しました。刑事ヴァランダーを主人公とするシリーズ小説の第七作目にあたる本書は、本国スウェーデンでは1997年に刊行されています。私…

L.A.ポール『今夜ヴァンパイアになる前に【分析的実存哲学入門】』

L.A.ポール 奥田太郎・薄井尚樹訳 『今夜ヴァンパイアになる前に【分析的実存哲学入門】』 名古屋大学出版会 L.A.ポールの『今夜ヴァンパイアになる前に【分析的実存哲学入門】』を読了しました。著者は、本書カバー裏に記された略歴によれば、ノースカロラ…

大江健三郎『「自分の木」の下で』

大江健三郎 『「自分の木」の下で』 朝日文庫 大江健三郎の『「自分の木」の下で』を読了しました。1999年から2000年にかけてのベルリン自由大学で講義を行っていた時代に、現地の日本人学校で子どもたちに話して聞かせたという文章が基になったという「なぜ…

スチュアート・ダイベック『シカゴ育ち』

スチュアート・ダイベック 柴田元幸訳 『シカゴ育ち』 白水Uブックス スチュアート・ダイベック(1942-)の『シカゴ育ち』を読了しました。文学研究者で翻訳家でもある柴田氏が「これまで訳した中で最高の一冊」と述べている作品(それがいつの時点のことな…

スティーヴン・キング『IT』

スティーヴン・キング 小尾芙佐 『IT』 文春文庫 スティーヴン・キング(1947-)の『IT』を読了しました。二度にわたって映画化もされた、文庫本にして四巻の分量となる大作ですが、内容的にもキングの代表作と呼ぶのに相応しい内容となっています。27年前の…

ハンス=ヨアヒム・シェートリヒ『ヴォルテール、ただいま参上!』

ハンス=ヨアヒム・シェートリヒ 松永美穂訳 『ヴォルテール、ただいま参上!』 新潮社 ハンス=ヨアヒム・シェートリヒ(1935-)の『ヴォルテール、ただいま参上!』を読了しました。旧東ドイツ出身の作家であるシェートリヒの歴史小説作品です。フランスの思…

シンクレア・ルイス『本町通り』

シンクレア・ルイス 斎藤忠利訳 『本町通り』 岩波文庫 シンクレア・ルイス(1885-1951)の『本町通り』を読了しました。セオドア・ドライサーやウィル・キャザーよりは10歳ほど年下で、そしてフィッツジェラルドやヘミングウェイよりは10歳ほど年上という世…