文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2021-01-01から1年間の記事一覧

スティーヴン・ミルハウザー『三つの小さな王国』

スティーヴン・ミルハウザー 柴田元幸訳 『三つの小さな王国』 白水Uブックス スティーヴン・ミルハウザー(1943-)の『三つの小さな王国』を読了しました。1993年に発表された本書の原題は“Little Kingdoms”で、三篇の中編作品が収録されています。「J・フ…

カルミネ・アバーテ『海と山のオムレツ』

カルミネ・アバーテ 関口英子訳 『海と山のオムレツ』 新潮社 カルミネ・アバーテ(1954-)の『海と山のオムレツ』を読了しました。イタリア南部のカラブリア州出身の作家、アバーテによる自伝的短編小説集です。いずれも著者自身が出会ってきたと思しき食が…

アンドレイ・サプコフスキ『ウィッチャーⅠ エルフの血脈』

アンドレイ・サプコフスキ 川野靖子・天沼春樹訳 『ウィッチャーⅠ エルフの血脈』 ハヤカワ文庫 アンドレイ・サプコフスキの『ウィッチャーⅠ エルフの血脈』を読了しました。ポーランドの国民的作家であるというサプコフスキが著したファンタジー作品シリー…

フエンテス『アルテミオ・クルスの死』

フエンテス 木村榮一訳 『アルテミオ・クルスの死』 岩波文庫 カルロス・フエンテス(1928-2012)の『アルテミオ・クルスの死』を読了しました。メキシコの作家フエンテスが1962年に発表した長編作品で、『テラ・ノストラ』や『老いぼれグリンゴ』などの作品…

モーパッサン『わたしたちの心』

モーパッサン 笠間直穂子訳 『わたしたちの心』 岩波文庫 モーパッサン(1850-1893)の『わたしたちの心』を読了しました。生涯で六編の長編作品を発表したモーパッサンですが、その最後の作品にあたるのが本書『わたしたちの心』です。訳者による解説でモー…

パトリック・モディアノ『失われた時のカフェで』

パトリック・モディアノ 平中悠一訳 『失われた時のカフェで』 作品社 パトリック・モディアノ(1945-)の『失われた時のカフェで』を読了しました。いくつかの視点から語られる「ルキ」を巡る物語は、これまでに読んだモディアノ作品と同様に、相変わらず霧…

アザリーン・ヴァンデアフリートオルーミ『私はゼブラ』

アザリーン・ヴァンデアフリートオルーミ 木原善彦訳 『私はゼブラ』 白水社 アザリーン・ヴァンデアフリートオルーミ(1983-)の『私はゼブラ』を読了しました。イラン系アメリカ人である作者が描く、文学に取り付かれた現代のドン・キホーテの物語です。『…

アン・パチェット『ベル・カント』

アン・パチェット 山本やよい訳 『ベル・カント』 ハヤカワ文庫 アン・パチェット(1963-)の『ベル・カント』を読了しました。2001年に発表された本書はPEN/フォークナー賞を受賞しています。南米のとある国を舞台に、日本企業の社長の誕生パーティー会場を…

トーマス・マン『詐欺師フェーリクス・クルルの告白』

トーマス・マン 岸美光訳 『詐欺師フェーリクス・クルルの告白』 光文社古典新訳文庫 トーマス・マン(1875-1955)の『詐欺師フェーリクス・クルルの告白』を読了しました。世界各国はもとより、マンの作品は日本でもよく読まれていると思うのですが、本作品…

ドストエフスキー『白夜/おかしな人間の夢』

ドストエフスキー 安岡治子訳 『白夜/おかしな人間の夢』 光文社古典新訳文庫 ドストエフスキー(1821-1881)の『白夜/おかしな人間の夢』を読了しました。中編作品「白夜」はデビュー3年後のドストエフスキーが27歳の時に発表された作品で、白夜の四日間…

トム・ジョーンズ『拳闘士の休息』

トム・ジョーンズ 岸本佐知子訳 『拳闘士の休息』 河出文庫 トム・ジョーンズ(1945-2016)の『拳闘士の休息』を読了しました。本書の表題作はトム・ジョーンズのデビュー作で『ニューヨーカー』への持ち込み原稿が編集者の目に留まり発表されると、1993年の…

村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』

村上龍 『コインロッカー・ベイビーズ』 講談社文庫 村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』を読了しました。学生時代に読んだ記憶があるのですが、久しぶりの再読でプロットなどはすっかり忘れてしまっていました。コインロッカーから生まれ出るという強烈…

バーナード・マラマッド『レンブラントの帽子』

バーナード・マラマッド 小島信夫・浜本武雄・井上謙治訳 『レンブラントの帽子』 夏葉社 バーナード・マラマッド(1914-1986)の『レンブラントの帽子』を読了しました。『レンブラントの帽子』は1973年にニューヨークの出版社から刊行された、マラマッドの…

レイモンド・チャンドラー『リトル・シスター』

レイモンド・チャンドラー 村上春樹訳 『リトル・シスター』 ハヤカワ文庫 レイモンド・チャンドラー(1888-1959)の『リトル・シスター』を読了しました。私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とする七つの長編作品のうち、1949年に発表された五作目にあた…

『モーパッサン短編集Ⅰ』

モーパッサン 青柳瑞穂訳 『モーパッサン短編集Ⅰ』 新潮文庫 『モーパッサン短編集Ⅰ』を読了しました。フローベールへの師事のもと、作家となったモーパッサン(1850-1893)はわずか10年あまりの間に360編以上の短編・中編作品、7巻の長編作品、旅行記、戯曲…

フィリップ・ロス『グッバイ、コロンバス』

フィリップ・ロス 中川五郎訳 『グッバイ、コロンバス』 朝日出版社 フィリップ・ロス(1933-2018)の『グッバイ、コロンバス』を読了しました。1959年に発表されたこの作品はロスのデビュー作で、全米図書賞も受賞しています。発表されたときは中編作品「グ…

H・P・ラヴクラフト『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』

H・P・ラヴクラフト 南條竹則訳 『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』 新潮文庫 H・P・ラヴクラフト(1890-1937)の『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』を読了しました。新潮スタークラシックスと題された、新潮文庫における海外文学の新訳シリーズ…

ジェフリー・ディーヴァー『悪魔の涙』

ジェフリー・ディーヴァー 土屋晃訳 『悪魔の涙』 文春文庫 ジェフリー・ディーヴァーの『悪魔の涙』を読了しました。映画化もされた『ボーン・コレクター』をはじめとする、四肢麻痺の科学捜査官リンカーン・ライムを主人公とするシリーズ作品が有名なディ…

イヴァン・ヴィスコチル/カリンティ・フリジェシュ『そうはいっても飛ぶのはやさしい』

イヴァン・ヴィスコチル/カリンティ・フリジェシュ 千野栄一・岩崎悦子訳 『そうはいっても飛ぶのはやさしい』 国書刊行会 イヴァン・ヴィスコチル(1929-)とカリンティ・フリジェシュ(1887-1938)の短編小説と戯曲作品を収録した『そうはいっても飛ぶの…

川崎寿彦『イギリス文学史入門』

川崎寿彦 『イギリス文学史入門』 研究者出版 川崎寿彦『イギリス文学史入門』を読了しました。初版の発行が1986年という少し古めの本ですが、大学の学部生向けのオーソドックスな英文学入門書です。『ベーオウルフ』から始まって、キングズリー・エイミスの…

ウィリアム・シェイクスピア『十二夜』

ウィリアム・シェイクスピア 小田島雄志訳 『十二夜』 白水Uブックス ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)の『十二夜』を読了しました。かなり昔に岩波文庫の翻訳で読んだ記憶があるのですが、今回は白水社から出版されている小田島氏による翻訳での再…

モリエール『ドン・ジュアン』

モリエール 鈴木力衛訳 『ドン・ジュアン』 岩波文庫 モリエール(1622-1673)の『ドン・ジュアン』を読了しました。いわゆるスペインの「ドン・ファン」を題材にしたモリエールの戯曲作品です。表紙カバーに記された解説文では、モリエールのドン・ファン像…

カート・ヴォネガット『国のない男』

カート・ヴォネガット 金原瑞人訳 『国のない男』 中公文庫 カート・ヴォネガット(1922-2007)の『国のない男』を読了しました。本書は2005年に刊行されたヴォネガットの遺作となった作品で、当時のアメリカの(というよりも世界の)社会情勢も踏まえたユー…

青木淳悟『学校の近くの家』

青木淳悟 『学校の近くの家』 新潮社 青木淳悟の『学校の近くの家』を読了しました。小説というかたちで何か不思議なものを表現しようとする青木氏の作風と、「小学校」という誰もが通過した場所でありながらどこか世間とは隔絶した特殊な空間とは、とても相…

モリエール『タルチュフ』

モリエール 鈴木力衛訳 『タルチュフ』 岩波文庫 モリエール(1622-1673)の『タルチュフ』を読了しました。コルネイユやラシーヌと共に17世紀フランスを代表する劇作家のひとりであるモリエールですが、悲劇よりは喜劇の分野で名を成した作品が多く、本書も…

ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ 魅惑者』

ウラジーミル・ナボコフ 若島正・後藤篤訳 『ロリータ 魅惑者』 新潮社 ウラジーミル・ナボコフ(1899-1977)の『ロリータ 魅惑者』を読了しました。新潮社から刊行されたナボコフ・コレクションの五巻目に当たる本書には、若島正氏による翻訳にロシア語版と…

『20世紀ラテンアメリカ短編選』

野谷文昭編訳 『20世紀ラテンアメリカ短編選』 岩波文庫 『20世紀ラテンアメリカ短編選』を読了しました。本書には16人のラテンアメリカ作家による短編が収録されています。ガルシア=マルケス、バルガス=リョサ、コルタサルやフエンテスなど既読の作家もいれ…

マイクル・コナリー『訣別』

マイクル・コナリー 古川嘉通 『訣別』 講談社文庫 マイクル・コナリーの『訣別』を読了しました。2016年に刊行されたハリー・ボッシュシリーズ作品です。原題は“The Wrong Side of Goodbye”で、チャンドラーの『ロング・グッドバイ』が想起されます。ロサン…

ヒュー・ロフティング『ドリトル先生航海記』

ヒュー・ロフティング 福岡伸一訳 『ドリトル先生航海記』 新潮文庫 ヒュー・ロフティング(1886-1947)の『ドリトル先生航海記』を読了しました。「ドリトル先生」シリーズは、イギリス生まれの土木技師である作者が娘と息子のために書いた物語が原型となっ…

ヘンリ・ミラー『北回帰線』

ヘンリ・ミラー 大久保康雄訳 『北回帰線』 新潮文庫 ヘンリ・ミラー(1891-1980)の『北回帰線』を読了しました。パリ滞在中の1934年に発表された本書は彼の処女作であり代表作で、作家の魂の声が打ち込まれた作品になっています。作家自身は本書を「これは…